もし焼き討ち後のカラヤに現れたのがクリス(&ボルス)だったら
□幕間 〜ブラス城〜
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思い立つ日が吉日とも言う。
サロメが手配してくれた宿で一晩過ごし(お決まりの悪夢も見ずにぐっすり眠れたのでやっぱり変だな、と思った)、朝食を済ませ(宿屋の向かいにある食堂のごはんは美味しかった)、身づくろいを済ませてユーリはサロンに向かった。
荷造りは既に昨夜のうちにしておいた。というより元々旅暮らしなので荷物はそうは多くない。
兵舎はいくさの準備に追われる兵達が大わらわだ。やはりここに長居はできない。ユーリは改めて思う。
サロンにはサロメだけがいた。彼は書類に追われているようだ。文官の仕事も大変だ。ことに、大きな戦いの前では。
「もうお発ちになりますか」
サロメは書き仕事の手を止め、言った。中断させてしまったことに関しては申し訳なかった。
礼と、簡単な挨拶のみで辞そうとしたユーリに彼は言った。
「本来なら供をつけて差し上げたいところですが、なにぶんこの状態で」
「いえいえ、そんな」
恐縮というより純粋な恐れでもってユーリは慌てる。この場合の『供』とはすなわち監視者と同義ではないか。
「しかし、方向音痴には定評のある貴女のことです。無事ビュッデヒュッケ城に辿り着けますかどうか」
何じゃそら、とユーリは内心でツッコんだ。そんな定評知らんわ、と――いや、まぁ、方向オンチなのは事実だが。
「もし迷ったのならすぐ引き返すように。グラスランドの民が皆親切だとは思わないことです」
サロメはそんなことを言って送り出してくれた。
相変わらず顔つきは厳ついが、彼のグリーン・アイズはとてもわかり易く『心配』と告げてくる。
「ご忠告感謝いたします。皆様にもよろしくお伝え下さい」
ユーリは長年の習い性で古風な礼を取り、サロンを辞した。
その足で宿のチェックアウトを済ませ、兵士でごった返す通路を抜ける。
「さようならブラス城。多分もう二度とここへは来ないわ」
堅牢な、石造りの城を見上げ、誰にともなく呟く。
石の城は慣れない。この城は、サウロニクスを想い出させる。
立派だけれど、どこか冷たい石造りの城。転んでも受けとめてくれない…そんな雰囲気。
――でも、『六騎士』の方達はとてもあたたかかったわ。
目の前に広がる草原。強く吹く風は何十年経っても変わらない。その事実がありがたかった。
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