拍手用ブック

□東京都青少年健全育成条例に反対して・番外
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「あなたが『セリス・ド・ボンジュール』でしたか…」

感嘆半分、呆れ半分で、セティは呟いた。
よもや、軍神ルクレティアがあんな少女小説の書き手とは誰も思うまいて。
ルクレティアはロゼを注文すると、ふふふ、と含み笑った。

「セティ殿だって、堂々としたものじゃありませんか。軍人としての通り名をそのままペンネームにするなんて。
 けれどそれがかえって、隠れ蓑になってるのかも知れませんね」

『風の賢者』は、風の紋章使いセティを指す、警備隊内での通り名だ。
ダインが『セーブルの守り刀』であり『南の守護神』であるように、
そして、同人界のアイドルであるところの彼女が『殺戮の天使』であるように。

「ルクレティア様は一体、いつお休みになっているのでしょうね…」

セティは、『セリス・ド・ボンジュール』の異常な筆の早さを知っていた。
本業の合間の息抜き、というレベルではない。あの執筆量は。

「ふふふふふ、やっぱり人間、好きなことにはとことん力を注いでしまうものですよ。
 セティ殿にしても、そうでしょう?」

確かにそれは、その通り。寝る間を削ってでも描きたいと思ってしまう。
それはもう、物書きの性と言うか本能のようなものだ。

「『イマシン』の絵を描かせていただけるとは、光栄です。
 …私も遊びで、ちょこちょこと釣り場のふたりなぞ描いてみたりしたこともありましたが」

「ええ、あの絵がとっても素敵だったものですから。元々『風の賢者』さんのファンでもありましたしね」

「それはどうも、恐れ入ります。…けれど、よろしいのですか?」

「何がです?」

「私があなたの本の挿絵を描くとなると、今までの絵師殿が気を悪くなさるのでは?」

するとルクレティアは、少女のようにはにかんで、切れ者の軍師様らしくなく、困ったように言った。

「あれ…私なんです」

「…は」

あの、目の中に星が飛んでいるような、時代錯誤いやいかにもオーソドックスな昔の少女漫画風の、あの絵。
あれを…軍師殿が描いていたって???
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