拍手用ブック
□砂の盾・番外
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閉会後、王子殿下がひとりになるのを見計らい、ダインは上着のポケットに忍ばせていたメモを渡した。
「彼女の気持ちです。おそらくは、誰にも見せる気はなかったのでしょう」
王子はメモを受け取り、開いて中を見た。呟くような低い声で、読み上げる。
「『共鳴し合っているからこそ、逢えない。彼は聡いひと、いつだって私の変化に気づく。
伝わってしまうのが怖い。きっと彼は苦しむ。真の紋章の共鳴は強すぎる。
ホントは逢いたい。でも絶対逢わない。大丈夫になるまでは逢えない。
この想いは私だけのものでいい。他の誰かに押しつけるくらいなら、いっそ消えたい』」
しばらく彼は、沈黙を保っていた。やがて、ダインを見上げ、静かに問う。
「どういうつもり?」
何がですか、と問うまでもなかった。
「あのヒトが誰にも伝えるつもりのなかったひとりごとを僕に押し付けて、どういうつもり、って訊いてる」
彼は静かに怒っていた。彼女の心を無にするようなダインの仕打ちが、どうやらお気に召さなかったらしい。
「知っておいていただきたかっただけです。彼女は王子殿下を恨んでなどはいないと」
「ダインさんも何だかなぁ」
王子は破顔した。
「放っとけばライバルがひとり減る、とか考えないの?」
「ライバル…ですか?」
「そ。あのヒトが裏で実はモテまくってんの、ダインさんだって知ってるでしょ?
こう言っちゃ何だけど僕、紋章分でポールポジションだから。
こんなことわざわざ知らせて敵に塩送って、余裕だね、ダインさん」
「競い合うことではないと思いますので」
「フェアプレイ精神、ってワケか」
王子はメモを丁寧に折りたたみ、懐にしまい込んだ。
てっきり返してもらえるとばかり思い込んでいたダインは、意表をつかれて内心でだけ動揺した。
「…恨まれてるなんて、思うわけないじゃないか。あのヒト、そういうヒトじゃないから」
ひとりごとのように呟いた王子殿下を、ダインは意外な驚きでもって見守る。
「ありがとうなんて言わないよ」
「もとより、そのようなつもりは」
「…ははは、だよねー」