拍手用ブック

□anytime smokin' cigarette
1ページ/1ページ

皆が王子の語る、臨場感に溢れたドラート攻略戦の一部始終に夢中になっているのを見てとって、
ダインは隣席の金髪の青年にこそっと囁いた。

「…ゲン担ぎも、程々にな」

「はぁぁ?」

目をむいたエルトに、ダインは続ける。

「ため息がつきたい気分の時でも、煙草にお呼びをかけるのは感心しないぞ」

「…ダイン隊長」

エルトは箸を置き、まじまじとダインを見つめた。

「それ、メンヘル入ってんじゃねぇっすか? マジやべぇっすよ」

「メルヘン?」

「いや、童話語られても困るし。ってーか何でタバコでため息なんすか? …オレが聞いたのは」

エルトはトーンを落とし、内緒話でもするようにダインに囁いた。誰に、とは、訊かずともお互い解る。

「考えごとする時に、思考がクリアになるから、ってヤツですけど」

「…それだけか」

ダインは毒気を抜かれた。

「俺が聞いたのは、傭兵のジンクスだ。
 ため息をつくと運が逃げるから、ため息をつきたい気分の時には煙草を吸う、と。
 煙と共に息をついて、これはため息などではない、と…」

「傭兵って…ダイン隊長。本拠地にゃ色んなヤツがいるんでしょーけど。
 傭兵風情に染まったダイン隊長とかって超似合わねぇし。マジ見たくねぇっすよ」

エルトはあえて、都合のいいように解釈し、流してくれたようだった。

彼女は別に、誰彼構わず涙の言い訳をばらまいていたわけではないようだ。
考えてみれば、隊員達の心の支えとして常にあった彼女のこと、そうそう弱さをさらけ出す真似もすまい。

「あの子が残してったのって、アレと…レシピぐれぇなモンだから」

「レシピ?」

「あの子が出てってしばらくして、カレーとか大ブームになったり?
 …やっぱ、何だかんだ言って、あの子はオレらの女神サマだったんだよなぁ、みたいな?
 アソコにアレがあるの知ってんのは、オレと…アスぐれぇなモンだけど。
 ふっと寄りかかりたくなっちまーよ、って時、やっぱあるんすよねー」

そうか、と、ダインは呟いた。

「だが、だからと言って、喫煙は感心しないな」

「わーってますって」

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ