捏造幻想水滸伝X〜初〜

□彼と彼女
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ソリスとのツーショット会談(全編非公開)の後、ユーリは宿舎の厨房に足を向けた。
想像していた通りの惨状に、彼女は肩を竦める。

男所帯の軍らしく、セーブル警備隊の食事は当番制が基本だ。
とはいえ、その名ばかりの当番がきっちりと守られたためしはない。

食事の支度など、下っ端の仕事、というわけだ。
だがもちろん、下級兵士には給仕以外の仕事が山ほどあり、おさんどんにかまけてばかりもいられない。

その辺の事情はわかる。
しかし、それでも、それにしたって、これはちょっと酷すぎる。

「…ったく、しょうがないなぁ」

ユーリは腕まくりして、戦場のような有様の厨房を、猛然と片付け始めた。



料理の前にまず鍋洗いからかよ、と、悪態をつきながら、どうにか下ごしらえを済ませる。
セーブルに、帰る家のある者はいい。
しかし、ここで暮らすのは、帰る場所のない者ばかり。
その数十人分の分だから、たかが米とぎだけでもひと仕事だ。

片付けもののおかげで、ここ数回の献立を察したユーリは、今夜はカレーでいいな、と、ひとりごちる。
大鍋で煮込めばいいから楽でいいのだが、セーブルでは香辛料も高級品の類だ。
それを見越して、本拠地やラフトフリートで買い求めたものを、土産に持ってきた。

我ながらいい仕事するわ、と、ひとり悦に入っていると、入り口に人の気配がした。
右手に意識を集中させ、警戒しながら振り向く。



「あなたは、ラウルベル卿の…」

意外な人物だった。
名前までちゃんと知っている。ソリスの息女・サリーシャ様。

しかしここは、彼女が訪れるにふさわしい場所ではない。
恋人であるダインを探してやってきたのか、とも思ったが、どうやらそうでもないらしい。

「あなたに用があるの」

サリーシャは、敵意を隠しもせずにつかつかと歩み寄ってきた。
腰の強そうな艶やかな黒髪に、切れ長の黒い瞳。浅黒い肌に、浅黄色の着物が良く似合っている。
年の頃は、20歳そこそこといったところか。
典型的なセーブル美女だ。



…しかし、その眼差しは怖いんですけど、と、内心ビビリつつ。ユーリは先程綺麗にしたばかりの食堂の椅子を勧めてみた。
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