捏造幻想水滸伝X〜初〜
□レインウォール防衛戦・その後
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「猛獣使い」
ダハーカの甲板の上で、川面を渡る風に心地よさそうに目を細めながら、カイルは傍らの女性に言った。
「アメとムチを巧みに使い分ける猛獣使いって感じでしたよねー」
レインウォールでの防衛戦を制し、バロウズのこれまでの悪行を明るみにした王子軍一行は、そろってラフトフリートに身を寄せていた。
バロウズの私軍のような扱いに肩身の狭い思いをしていた彼らは、完全にバロウズと手が切れたことで、かえってせいせいとして、士気も揚がっている。
「あら、ダイン殿って猛獣ですか?」
カイルのあまりな言い草に、ルクレティアはふふふ、と含み笑う。
「私には、過保護なお父さんに見えましたけど」
「うわー、それってダイン殿気の毒」
カイルは軽口で返したが、ダインに庇われるようにして本陣に戻ってきたユーリの戦闘直後の状態を見ていたので、あれじゃ多少過保護になったって仕方ないって、とは思っていた。
「自分のこと、全っ然構わないんだからなー。
他人のことばっか優先させて」
「ああ、それは私も思いました」
ルクレティアは、扇で口元を覆い、遠い目をして続ける。
「こういう商売ですから私、人から責められたり恨まれたるするのは慣れてるんですけど。
捨て石にした本人から庇われるなんて、初めてです」
「捨て石、ねぇ…」
それもまた凄まじい表現だが、敵陣のど真ん中に放り込んだ、という意味では、あたらずとも遠からずだ。
「あそこまでしてくれるとは、正直思ってもみなかったんですよね」
ルクレティアはらしくもなくため息をついた。
そして、自分が『軍師らしからぬ発言』をしてしまったことに気づいて、これ、ここだけの話にしておいて下さいね、と、カイルに釘を刺す。
わかってますって、と、カイルは鷹揚に笑って、さりげなく話題を変えた。
「でも、ユーリちゃんも気丈ってーか何てーか。
猛獣に怯えてたくせに、躾はしっかりする、ってあたりが、なかなかイイですよね」
「怯えてた? ダイン殿に? ユーリさんが?」
意外、と言いたげに、ルクレティアが食いつく。
筋道を通した正論で、静かな口調ながらも、いつになく冷静さを欠いたダインを諌めたユーリに、そんな気配は微塵もなかった。
驚きを顕わにルクレティアがそう述べると、カイルは、だーかーら、と、続ける。
「あの場面では、軍師様を庇わなきゃならなかったからどうにか頑張ったんでしょ?
それまでは、じとーっと、静かーに怒ってる猛獣に怯えまくってたんですから。
でもまぁオレは、ダイン殿が怒るのも無理ないと思いますよー」
「…え?」
「ユーリちゃん、無理を重ねるタイプっぽいし。全然大丈夫じゃないのに『大丈夫』連発するし。
もっと自分を大事にしろ! って怒りたくもなりますよって」
「カイル殿…」
ルクレティアは、今度は脱力感でため息をついた。