もし焼き討ち後のカラヤに現れたのがクリス(&ボルス)だったら

□走れクリス(笑)
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クリスは激怒した。必ずかの邪智暴虐の評議会を除かねばならぬと決意した。
クリスには政治がわからぬ。クリスはゼクセン騎士団の長である。蛮族と戦い、日々鍛錬をして暮らしてきた。けれども邪悪に関しては人一倍に敏感であった。……





どこぞかの国の純文学のような書き出しだが何のことはない。
一部の評議会議員がハルモニアと通じているらしいとうっかり耳に入れたクリスが、

「くっ…評議会は我々を何だと思っているのだ! 先の戦いはハルモニアを手引きする為、我々をおとりに使ったというのか!!」

と、怒りに任せてビネ・デル・ゼクセへ単身、乗り込もうとした――ということである。
心配性のサロメが、しばらく待てば正確な情報も入ってきますし、先の戦いの疲れも残っているでしょう、と必死に止めたが無駄だった。

途中、クリスはゼクセンの森で倒れ、ブラス城に担ぎ込まれて来た。
ただでさえ重装備のクリスを運んできたルイスの火事場のクソ力には素直に拍手を贈りたい。



クリスが倒れた、との一報を、ユーリはブラス城のサロンで聞いた。
彼女はその時、書類のファイリングという極めて散文的な仕事に追われていた。
たかが雑務というなかれ。ひとくちに書類と言っても、評議会からのもあれば騎士団内部のもの、グラスランドの各部族に関するものまで多岐に亘って、当然大量。分類だけでも一仕事だ。

サロメも同じ部屋にいて、彼はひたすら書き物に没頭していた。
覗くつもりはなかったが、ちらりと見えてしまった。数字の羅列。多分、小難しい計算が必要な――

――あ、コレあかんヤツや。

ユーリは見なかったことにしておいた。
苦手分野、ということを抜きにして、おそらく『社外秘』の…部外者が見ては駄目なヤツ。
サロメは特に器具も使わず筆算もせず、黙々と数字を記入していく。特筆すべきスピードだ。

――暗算かよ、すげぇな。

この人の頭の中身どーなってんだろ、かち割って見てみたい、と思いつつ眺めていると、ふとサロメが顔を上げた。
視線が合う。

「一息入れますか?」

サロメが言い、ユーリは一も二もなく賛成した。サロメの淹れる茶は美味だ。
ユーリは長らく筋金入りのコーヒー党だったのだが、ここへ来て紅茶もいいなと思うようになった。

「サロメ殿、それ暗算ですか?」

凄いですね、とユーリが率直に言うと、サロメはひとこと、このぐらいは、とだけ。
ユーリは、ほへぇぇぁ、と感嘆し、

「いやいや、フツーはソレ、算盤が必要なヤツでしょう」

「…そろばん?」

サロメが茶の仕度の手を止め、怪訝そうに。
最近わかったのだが、サロメがこうして何か企んでいそうな表情をする時は、単に不思議がっているだけなのだ。
悪人面と目つきの悪さで損してるなこのひと、と、ユーリは思う。中身は今時ちょっとないくらいのキラッキラの善人なのに。

「何故計算に武器が必要なのですか?」

「ふぇ?」

「そろばんって、商人専用の武器でしょう?」

「えっ」「え?」

よくよく問い質してみると、ゼクセンでは算盤は主に移動の多い交易商の使用する武器なのだとか。

「いや、アレは計算機! 計算する道具!!」

「あれで、ですか? どうやって??」

……嗚呼グラスランドの一部族(と、言ったらゼクセン民から総ツッコミだろうが)で算盤がそんな使い方をされていると知ったら、シンロウ殿は激怒するだろうな、とユーリは思った。
ちなみに、あの商人としては良心的過ぎるきらいのあったラフトフリートの青年も、今ではファレナを背負って立つ立派な大商人。やはりあのじっちゃんの孫だった。

そんな中、ルイスが大慌てで駆け込んできたのだ。
もちろん、ティータイムはお預けだ。


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