もし焼き討ち後のカラヤに現れたのがクリス(&ボルス)だったら

□幕間 〜烈火の騎士と〜
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夜。グラスランド側の石橋の上で。
精霊に祈りを捧げる、という名目でお目こぼししていただける程度にはこのブラス城にも馴染んできた…と、自分では思う。
六騎士の聡い騎士のひとりかふたりが首をかしげる言動も、『風変わりな、他国の娘』がいい隠れ蓑になっている…はずだ。

――しかし私は何故まだここにいる?

少し冷たい夜風に吹かれ、ユーリは自問自答する。
二度とここには来ないと決めて、「さようならブラス城」したはずなのに。

――結局、クリス様だよな。

銀の乙女とも白き英雄とも呼ばれ、ゼクセン民からの期待を一身に受ける、あの女性。多分、時を止めた頃の自分より少しばかり年長だろうと思われる、すみれ色の瞳の騎士。
着込んだ鎧さながらにカッチカチの石頭なのかと思いきや、意外にも思考は柔軟で、それでいて騎士らしく一本筋の通った言動。

――そして何より、優しい。

表に出さぬよう自制しているようだが、他者の死に(それが敵であったとしても)心を痛めていて、不意討ちのように細やかな気使いを見せたりもして。
ユーリの身ぐらい私が守ろう、と言い切った後、こちらの嫌悪の感情を見抜き、謝罪した。

――すまないな、私は何か無神経なことを言ったか、なんて。

守られること、押しつけられるようにして与えられる『善意』に恐れさえ覚えて怯えるこちらの気持ちを見抜いたかのように。

――クリス様にもあったのかも知れない、こんな気持ちが。

だからクリスはこんなにもよくしてくれて、時々度外れに過保護だ。迷子になるから、なんて…彼女は私を幾つだと思っているのだろう?



こうしてクリスを想う時、歌う歌は甘くてちょっぴり憂いを含んだものになる。
讃美歌程には荘厳でなく、恋歌ほどの切なさはなく。
中途半端に優しい歌は、ちょうど水の精霊に祈りを捧げる時の歌。嵐は要らない、ほんの少しの慈雨を願って…そんな感じだ。





ユーリは歌を止めた。気配を感じる。

――あぁ、『炎』が来た。

烈火の騎士は別に気配を絶つ気はないようだ。だから先手を打って言ってやった。

「何かご用ですか、ボルス殿?」
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