もし焼き討ち後のカラヤに現れたのがクリス(&ボルス)だったら
□幕間 〜ブラス城〜
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デザート後の乾杯を、ユーリは片付けを口実に辞退した。
もちろん、口実というわけではなくちゃんと皿洗いまで引き受けた。
「しかしまぁ、よく食ったな…」
特別あつらえの皿だぞ、と、ひとりきりの厨房でユーリは毒づく。
とは言え、10人に満たぬ人数での内輪の会だ。数百人、数千人規模の戦時の炊き出しを思えばまったく楽な仕事と言っていい。
一宿一飯の恩もある。せめてこのくらいはさせていただかなくては……それに。
――これからきっと、何かある。
多分、いくさの話だろう。聞かない方がいい。というか、聞きたくない。
――それにあのサロメという男。
油断ならない。あの男はどうやらこちらの正体に気づきつつあるようだ。ゼクセン騎士団の2、参謀役でもあるという。
他人事なら流石ね、と誉めてやりたい。だが、自身の安全を脅かすものであればそうも言っていられない。
――あの男も私を、専属の便利な飛び道具扱いする気だわ。
ユーリはとうにそう決め込んでいた。
軍師と呼ばれる者達がかつて自分にどんな仕打ちをしたか。忘れてなどいない、忘れるものか。
――私はもうこりごりなの。戦いも、それに付随する何かも。
グラスランドもどうやら自分にとって安全な場所とは言えないようだ。
とにかく近々にブラス城を発とう。できれば、明日の朝にでも…体調が許すものならば。
「あれ? でも今日ちゃんとお夕飯食べられたな…」
ユーリは皿を拭きながら呟いた。
ボルスと名乗ったあの烈火の騎士の『罪』の意識を受け取った。
あんなにもクリアに『原罪』は思念を拾ったというのに、慣れた吐き気も発熱もない。グラタンもミネストローネもマグロづくしも、デザートのケーキまで美味しくぺろっと平らげた。
「これはいよいよ私もチートの域に達したか? …って、んなこたぁないわな」
おかしいな、とは確かに『現場』でも思ったのだ。
焼き討ち後のカラヤ、かつて村だった残骸。禍々しい炎の記憶、死者の怨念。そして、『罪』。
それらはすべて『本物』だ。だが――。
――妙に手応えが薄い。何故?
あれだけ明確な『罪』を感じて、こんなにピンピンしていられたことはかつてなかった。
本来なら、丸1日は寝込むはずなのだ。
「何か…ぞわぞわする…」
ユーリはふるり、と身を震わせた。
――クリス様のおっしゃってたビュッデヒュッケ城。そこに行ってみようか。なるべく早く、できれば明日にでも。
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