もし焼き討ち後のカラヤに現れたのがクリス(&ボルス)だったら

□エルフの主食は何だろな
1ページ/2ページ

ホラそこでいつもの「料理も我が家のたしなみ」で参戦しないと、と、サロメをけしかけるパーシヴァル、
まあとりあえず食え、と、自分が作ったわけでもないのに我が物顔で勧めるレオ、
8等分なら切り分け易くてよかったな、とデザートのケーキについて極めて実務的なコメントをかましたクリスと、なかなかにカオスな夜のサロン。

ご馳走に舌鼓を打っていたユーリがふと気づいたように窓辺に佇むロランを見やり、

「召し上がれるもの、ありました?」

ロランは能面のような表情でひとこと、お気使いなく、とだけ。
ユーリは気を悪くした風でもなく密やかに笑って、

「ふふっ、何だか懐かしいわこういうの。知人に、ロラン殿によく似た感じの方がいましたの。
 聖地ルナスの斎官を何十年と勤めてきた方で、あまり里にも戻らないものだから彼の幼馴染みの女の子が心配して連れ戻しに来たくらい。
 ふたりとも、アルセイドの出身ですのよ」

「アルセイド…南方の隠れ里ですな」

ロランは窓辺から離れ、こちらにやって来た。
おぉロラン殿が動いた珍しい! と、パーシヴァルが茶化す。

「アルセイドをご存知ですの?」

と、尋ねたユーリに、

「私の出身はそちらではありませんが」

と、ロランが返す。
おい会話が成立してるぞ、と、ボルスが大袈裟に驚いていた。

「じゃあ、スタリオン殿と同郷かしら?
 彼とはちょくちょく顔を合わせますのよ。決まってピンチの時に現れて、風のように逃げ道をつくってくれるの。
 スタリオン殿はそうでもなかったけど、アルセイド組はこういう会食の時、ホントに食べるものに困るらしくて。
 イサト殿――ルナスの斎官様ですよ――彼はまだ人間社会に慣れてたけど、ウルダさんなんて匂いだけで気持ち悪くなっちゃうみたいで。
 だから私、彼らが同席する時には別に肉っ気抜きのメニューを用意したものです。ハム抜きのポテトサラダとか、お豆腐のステーキとか」

ヴィーガンクッキーはウルダさんにも喜んでもらえましたわ、と、追憶の瞳でユーリは微笑む。

「ファレナにも里下がりのエルフがいましたか」

「本来的な意味での里下がりはいつになるやら、って感じでしたけどね」

ユーリは苦笑して、

「イサト殿はもうアルセイドに戻るつもりなんてないんじゃないのかしら。彼の忠誠は斎主様と聖地ルナスの元にある。
 本当はウルダさんだってわかってるはずなんですけどね」

「なるほど」

と、ロランは頷いて、

「私の忠誠は、ゼクセンに。だが、故郷を想わぬわけではありません」

それはそうでしょう、と、ユーリは呟き、

「やっぱりロラン殿は、イサト殿にちょっと似ています」

「それは、エルフですからな」

「でもイサト殿は、お耳よりスキンヘッドと左目の刺青の方が印象的でした」

「では私は耳だけだと?」

「いやそーは言ってねぇし」

うっわーこのヒト面倒臭ぇ! と、ユーリは素に戻り弾けるように笑って、

「そっか今気づいたけど私、スタさんのこともアルセイド組のことも、あんまエルフだから―とかって考えたことなかったかも。
 スタリオン殿は速さに命を懸けるかけっこオタクで、イサト殿はハスワール様命の堅物斎官。ウルダさんは偏食気味のツンデレお嬢さん。
 そういう認識だったのねーって、今わかった」

「しかしあなたは友人のエルフの為に特別なメニューを考案した――」

「アレルギー持ちの人にはそのくらいするでしょう。どうしても嫌いってモノが1コ2コあるのは仕方ない。人間相手だってそのくらいはしますよ。
 ルイス殿が先程私に、チーズは大丈夫ですか、って訊いてくれたのと同じ程度の気使いですわ。何も彼らがスペシャルってワケでなし」

名指しされたルイスが、えっ僕ですか!? と色めき立つ。
サロメは小さく息をつくと、一向に切り分けの進まないルイスの手からナイフを取り上げ自作のケーキを引き寄せた。
次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ