もし焼き討ち後のカラヤに現れたのがクリス(&ボルス)だったら
□あなたの御世に祝福を
1ページ/2ページ
食べ方をご教授いただければ、とサロメは言ったが、どうやらその必要はなかったようだ。
最初にワイルドなかぶと煮に挑んだレオが、これは美味いぞと絶賛したものだから、皆でおっかなびっくり試食して――
「うん、美味い」
「確かに」
「お肌ピチピチコラーゲン、ですね」
「砂糖、しょうゆ、ジンジャーとねぎと…後はなんだろう?」
「私は結構。皆さんでどうぞ」
後はなし崩しだった。
新鮮だからとあえてソースはかけずに塩コショウだけでシンプルに仕上げたマグロステーキも、アボカドと和えたディップも、コックスキル持ちのルイスが斬新だと称したカルパッチョも、瞬く間に騎士達の胃に収まった。
「あ、サロメさんお帰りなさい。サロメさんの分、取っときましたよ」
サロンに戻ったサロメにルイスが開口一番こう言った。
パーシヴァルはサロメの背に隠れるようにしているユーリを見とめ、
「『天使』は無事見つかったようですね」
「パーシヴァル…」
サロメは渋面を作ったが、反論はしなかった。
クリスは生成りのワンピース姿のユーリを見、
「すまない、もう休んでいたか?」
「いいえ」
ユーリは小さく首を振り、風と地の精霊に祈りを捧げておりました、と言う。
「祈りか…」
と、クリスは呟き、
「ビネ・デル・ゼクセにも教会がある。祈りを捧げる対象は女神だが、心の落ち着く場所だ。
興味があるなら行ってみるといい」
「クリス様…」
サロメはクリスを止めようとした。
太陽神一神教の国ファレナ出身で、グラスランドでまじない師に弟子入りまでしたというユーリに異教の女神の信仰を勧めるのはいかがなものか、と。
しかしユーリは屈託ない。
「教会? って、もしかしてシンダル遺跡の名残みたいな――」
「いえ、我がゼクセンは残念ながら歴史の浅い国でして」
そのあたりがコンプレックスなのですよ、と、サロメは言う。
「マグロの料理を作ったのはお前か」
いきなりのレオの大声に、おぉっとぉぉ! とユーリはたじろいだが、レオは別に怒っているわけではない。これが素だ。
「馳走になったぞ、美味かった! やはり食わず嫌いはいかんな!」
ユーリはレオのテンションに引きつつも、お気に召したのなら何よりです、と返す。
「お頭付きのお魚って、縁起物なんですよ。ファレナではお祝いごとの定番です」
ユーリはにこりん、と音のしそうな笑顔を見せてクリスに向き直り、改めてといった風に異国の騎士の礼を取り、言った。
「クリス様におかれましてはこの度の御昇進、目出度きことでございます。
貴殿の御世に大河の慈愛と太陽の威光の祝福があらんことを」
クリスはゼクセン騎士として返礼した。サロメはその様を注意深く見守っていた。
大河の如き慈愛と太陽の如き威光をあまねく示さんが為に――それは確かファレナ王家に対する忠誠を表す文言ではなかったか。
あるいはユーリはファレナ中枢に近しい位置に在った娘なのか。『大河の慈愛』と『太陽の威光』…その単語がごく自然にすらりと出てくる程度には。
→
次へ
←
前の章へ
[
戻る
]
[
TOPへ
]
[
しおり
]
カスタマイズ
©フォレストページ