もし焼き討ち後のカラヤに現れたのがクリス(&ボルス)だったら
□クリスの『命令』
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クリスの昇進祝いを兼ねたディナーは、サロメとパーシヴァルの手料理の数々と、ユーリ渾身の作マグロづくしがテーブルに所狭しと並べられ、皆を喜ばせた。
「ワイルドだな」
巨大なマグロの頭の姿煮を見た感想をクリスが率直に――あるいは若干引いているのかも知れないが。
「城下の商人に押し付けられたんですよ、いいマグロが揚がったからと」
パーシヴァルは弁解のように言った。
「これは…マグロか? 生のままで食うのか??」
ボルスが得体を知れないモノを見る目で皿を見ながら言うのにサロメが、
「お刺身、というのだそうですよ。海産物の豊富な土地ではポピュラーな食し方です」
「何でも、ファレナ伝説の料理人何とか直伝の簡略レシピだそうで」
と、パーシヴァル。
「マージン欲しさにこねくり回す商人がいない土地の贅沢な食べ方、というわけか」
クリスが言った。
「マグロのカルパッチョって斬新ですよね…」
コックスキル持ちのルイスは言いつつも、少々腰が引けている。
レオがふむ、と、かぶと煮の大皿を覗き込み、
「匂いはいいな、美味そうな匂いだ。何事も経験だ、食ってみりゃいいさ」
「私は遠慮します。肉っ気はどうも体が受けつけませんので」
エルフのロランはそっけない。
パーシヴァルが例によって、
「ロラン殿はベジタリアンというよりむしろビーガン寄りですからね」
「体質です。こればかりはどうしようもない」
「それはそうと、ユーリはどうした?」
クリスがふと気づいたように言う。
パーシヴァルは顎に手、小首傾げの例のポーズで、
「それが、お誘いする暇もなくいずこともなく去ってしまって」
「手伝いだけさせておいて帰すなどあるか。ここは是非にと招待すべきところだろう」
「いやそれがどうも…サロメ殿が彼女のご機嫌を損ねてしまったようでして」
「パーシヴァル!」
サロメが叫び、パーシヴァルが苦笑して口をつぐむ。
クリスはサロメを咎めるように、
「サロメ…一体何をしたんだ」
「いえ、わたくしは……」
「サロメ殿の『天使』。歴史書の中の『何とか卿夫人』。どうやら彼女の故郷では悪名高い人物とされているみたいです。
そんな女性の話を長々とされたものだから、うんざりさせてしまったのでは?」
しかも、と、パーシヴァルは続けて、
「しかも彼女、せっかくサロメ殿のことを好きになりかけてたのに『脳内彼女しかも故人には勝てる気がしない』と」
一同、ぎょっとしたようにサロメを見た。
「サロメ殿に一目惚れとはまたチャレンジャーだな…」
「ボルス、お前それはさすがに失礼だろう」
レオは同僚をたしなめた。
「とりあえず、どこからツッコんだものですかね……」
と、年に似合わぬ腹黒さいや冷静さを発揮したルイスはきっと大物になる。
ロランは言葉こそ発しなかったが、珍しく驚愕の表情を浮かべていた。
「サロメ」
クリスが真面目くさって呼んだ。はい、と、サロメはかしこまる。
「彼女を連れて来い、これは命令だ」
「命令…ですか」
「命令だ」
クリスは繰り返した。
普段、団長風も上官風も吹かすことのないクリスのこのひとことに、逆らえる者などいないだろう。
もちろん、サロメの返事は「承知しました」一択だ。しかし彼はサロンを出る時、こう言った。
「先に始めていて下さい。彼女はおそらく、自分待ちで…というのを気にしてしまう方でしょうから」
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