もし焼き討ち後のカラヤに現れたのがクリス(&ボルス)だったら
□彼女は自称まじない師
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「夕食は私とサロメ殿で作りますからクリス様はおくつろぎを」
と、パーシヴァルが言った。しかしクリスは、いや、と首を振り、
「依頼のネジが見つかっていない。もう一働きして来よう」
「おや、外に出られるのでしたら誰かをお連れ下さい」
サロメの勧めでクリスはボルスを連れ、再びアムル平原に向かうようだ。
「あの、私も…」
ユーリが控えめに申し出たがクリスは、
「ユーリは身体を休めておけ。具合がよくないのだろう。…サロメ」
「承知しました」
サロメはクリスに皆まで言わせることなく阿吽の呼吸で受けた。
「長旅でお疲れでしょう。宿の手配はしておきます」
サロメは淡々とユーリに言った。
えっと…と、ユーリは口ごもり、
「あのっ、ご親切にありがとうございます。
でも…何か私にお手伝いできることはありませんか?」
「無理しなくていいですよ、行き倒れ寸前の迷子のお嬢さん」
パーシヴァルがからかうように言い、ユーリは、むー、とふくれて、
「方向オンチは神が授けた偉大なる才能です!」
ははははは、と、パーシヴァルは声を上げて笑った。ユーリはふくれっ面のまま、
「もぅ! そんなに笑わなくてもいいじゃないですか」
「これは失礼。でも、心配しているのは本当ですよ。随分酷い顔色をしていましたからね」
「それはもう、大丈夫。『磁場』から離れれば――」
「磁場?」
小首をかしげたサロメにユーリが、
「あれ、これってまじない用語ですか?
私、少しだけどまじないをたしなむんです。昔カラヤの村に立ち寄った時に村一番のまじない師に弟子入りしたんですよ、押しかけ弟子ですけどね。
あの場所は…カラヤの村だったあの焼き討ち現場は、色んなモノが渦巻いてて、色んな思念が押し寄せてきて…それで中てられて、ちょっと頭痛くなっちゃって。
ああいう、精霊がざわついてる訳アリの場所をグラスランドのまじない師達は『磁場』と呼んでいました。怨念が悪さをするだけだから、その場所から離れさえすれば大丈夫」
ユーリはにこりん、と音のしそうな笑みを見せた。
「あぁ、それで」
パーシヴァルが顎に手をやり頷いて、
「件の御神託と相成ったわけですね、『それはあなたの罪じゃない』と」
「……罪?」
ぴくり、とサロメの片眉が上がる(サロメは眉無し、というツッコミはこの際却下だ)。
「それはどういうことですか」
くるん、と、体ごと向き直り問うたサロメにユーリは一瞬顔を引きつらせ、
「どういうって言われても説明のしようが…私あの時ボルス殿に『罪』の意識を感じて…でもそれって多分、彼のせいとかじゃなくて。
思念が…凄くクリアに、私の中に飛び込んできて。彼が…多分彼のだと思ったんだけど…彼が自分を責めてるのが伝わってきて。でも、彼のせいじゃないの。それは確かなの」
「何故、そう言い切れるのですか?」
サロメの詰問口調にユーリはたじろいだ。
「それは……術師の勘としか言えないわ。
私、自分で言うのも何だけどそんなに強い術師じゃないの。
でも、…そんな私でさえあんなにもクリアに感じ取れたってことは、彼がずっとその『罪』を抱えて…抱え続けて、苦しんで来たんじゃないか、って」
「なるほど」
サロメは、ユーリのたどたどしい子供のような言い草を信じたかのようだった。
パーシヴァルは意外そうに目を見張る。
「根拠を述べよ、と問い質さないなどサロメ殿らしくもない」
「『術師の勘』で充分ですよ」
サロメは口元に弧を刷いた。
おやおや、と肩をすくめるパーシヴァルとは対照的に、ユーリは油断なくサロメを見つめている。
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