もし焼き討ち後のカラヤに現れたのがクリス(&ボルス)だったら
□出逢いは焼き討ち場
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ブラス城下でタルをぶっ叩いていたベルに頼まれネジを探しにアムル平原に寄せたクリス一行は、足を伸ばしてカラヤの村まで行ってみた。
成り行き上、仕方なかったとはいえ、自分達のしたことの結果は受け止めなくてはならない。それがどんなに辛く心が痛むことであったとしても――クリスはそういう考え方をする人間だった。
体がなまるとかで遠乗りに出ているレオとロランと、ブラス城の留守を預かるサロメを抜いた六騎士若手の3人はしばし言葉もなく、ただ眼下に広がる焼けただれた村の残骸を眺めていた。
クリスの視界の端に動くモノがかすめた。それはパステルピンクの服を着た娘だった。
彼女はかつて村があったあたりからこちらに向かって歩いてくる。いかにも頼りなげな、危うい足取り。
「大丈夫か? 顔色が優れないようだが」
クリスは彼女に声をかけた。そうせずにはいられなかった。
「え、あ…はい…」
マロンブラウンの長い髪をふたつに分けて高い位置で赤いリボンでくくり、フリルとレースとリボンがふんだんに使われた女の子らしい可愛いワンピースを着た、飴色の瞳の少女。
クリスよりは年下だろうが、しかし明らかにルイスよりは年長と思われる。小柄だが、女性らしい凹凸のはっきりとした体つき。
服も髪型も彼女によく似合っていたが、クリスが指摘した通り酷く顔色が悪かった。
「大丈夫です。少し、頭痛がして…」
「それはいけませんね」
すかさずパーシヴァルが、
「よく効く薬を持ってますよ、お飲みになりますか?」
「いいえ」
少女は即答した。
頑なな響きにひるんだパーシヴァルに気づいた少女はとりなすように微笑んでみせて、
「すみません、ご親切にありがとうございます。
でもこれは、鎮痛剤ではどうにもならない痛みですから」
と、言う。彼女は続けて、
「このあたりに、村があったはずなのです。カラヤクランの集落が」
「ここが……カラヤの村だ」
クリスは言った。
ある程度予想はしていたのだろう、少女は取り乱したりはしなかった。ただ、目を伏せ、やるせなげに首を振る。
「酷い…何て酷いこと。
多少の変化は覚悟してた。でも、これは、まるで……。ご存知なのなら教えて下さい。ここで一体、何があったのですか?」
クリスは手短に説明した。それをしたのが自分達であるとは流石に告げられなかったが。
「そうですか、そんなことが…」
一通りの事情を察した少女は呟くように、
「いくさなんて嫌だわ、本当に。憎しみが復讐を呼び、罪の連鎖を引き起こす。それが人の世の常なのか……」
ボルスがついっと進み出て、
「君はここで何を? カラヤの者には見えないが」
「私は――」
少女は答えかけ、ボルスを見上げ、驚愕の表情を浮かべた。
「あなた……!」
少女は鋭くボルスを見やり、何か言いかけ、しかし、とどまった。
彼女はボルスに名を問うた。
「おれはゼクセン騎士団のボルスだ」
「そう、ボルス殿。……ねぇ、それはあなたの罪じゃないわ」
「は?」
「ここで起きたこと、ここであったこと、ここであなたが抱いた想い。
でもそれはあなたのせいじゃない。あなたの罪じゃないわ」
「貴様……何が言いたい!!!」
激昂したボルスをクリスは止めた。
少女はつぶらな飴色の瞳を凛と輝かせ、真っすぐにボルスを見上げ、言う。
「わからないのなら、いいの。
でも、もしあなたが自分を責めているのなら、その必要はないと言っている。だってそれは、あなたの罪ではないのだから」
「……」
ボルスは怒りとも驚きともつかぬ表情で黙り込み、唇を噛む。
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