昼下がりのティータイム

□I doll
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ユーリの部屋は、城に突き刺さった船の、甲板上をさらに歩いたいちばん奥――つまりは、城から戻ろうとすると墓場を抜けなければならないのだが、
その墓場の手前あたりで不意に呼びかけられた。

「お時間あればお話させていただきたい…ザクソン卿夫人」



ユーリは足を止め、周囲を探った。
目つきが鋭くなっているだろうことは自覚していたが、どうしようもなかった。

この辺は常に人気は少ないのだが、暗くて湿った場所が好きとか主張するリザード連中のたまり場になり易い場所である。
が、今日は幸い、ヒューゴが趣味のボス退治とやらでバスバを連れ出していたので、本当に誰もいない。


トワイキンが狂ったように土を掘る音だけが不気味に響いている。



ザクソン卿夫人、とユーリを呼ぶ者は今はほとんどなく――今となってはもう、知る者もわずかであろう。
だが、知る者にとってその名には意味がある。

――場合によっては消した方がいい。

ユーリは殺気とも呼べる気配をまとったまま、振り返った。





だからユーリは、呼びかけてきた相手がまるで逃げ隠れする様子を見せなくても、警戒を解きはしなかった。
意識は常に右手に集中している。
相手が誰で、どんな地位にいるかなどは、こうした場面では些細なことに過ぎない。

自分の安全を脅かす者には容赦はしない。
彼女はそうして、これまでどうにか生き残ってきたのだから。



ユーリの気配が瞬時に変化したのに気づかなかったわけはなかろうに、相手の態度も表情もまったく変わらなかった。
意外だとは思わない。彼はそういう商売のひとだ。

「そういう呼ばれ方は久しぶり」

ユーリは、相手の流儀に倣っておっとりと言葉を紡ぐ。

「でもその呼ばれ方は好きじゃない。覚えておいてね、サロメ卿」
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