昼下がりのティータイム

□女神にはなれない貴女の奇跡 〜その後〜
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クリス班が城を出て、5度目の夜。
ヒューゴ班はチシャまで行くからまだまだかかるだろう。
だが、近場のゼクセでドサ回り(って酷い表現だ)のクリス達はぼちぼち戻ってもいいんじゃないかしら、なんて思いつつセシルの穴埋め(=門番)業務をこなしていたユーリは、門前でふぅ、と息をついた。
一緒に門番をしていたカラヤの青年が、そろそろ上がれよ、と気を使って声をかけてくれる。
カラヤのひとは気性が荒く感情の起伏も激しいが、皆総じて親身で親切だ。それはずっと昔から――はじめてカラヤの村を訪れた時から変わらない。

「ありがとう。でも、もう少し…」

どうにか笑顔を浮かべて、外を見る。
人気はない。陽はもうすっかり落ちていた。



少しの期待を込めて、歌なぞ歌ってみた。
待ち人来たらず。吟遊詩人の紋章は大した役立たずだ。

「精霊を泣かすなよ」

と、前出のカラヤ人が言う。

「え?」

「精霊たちが悲しんでる。言霊をそういうふうに使っちゃあ、よくないぜ」

「……うん」

それでもユーリはしばらく、人待ちの歌を口ずさんでいた。
誰も帰って来なかった。ヒューゴやセシル達も、クリス達も、他の人達も、誰も。
代わりに、ジョー軍曹が来た。

「何だ何だ、辛気臭いな」

大声ダックの登場で、暗闇が少し遠のいて、星の光がほんの少し力を増したような、錯覚。

「軍曹、そろそろこの子回収してくんないかな。
 悲しい歌ばかり歌って、このままじゃ精霊たちが泣き出して、雨になっちまう」

「精霊! …まったく、人間ってヤツは」

カラヤの青年の訴えに、ジョー軍曹は大袈裟に手羽を広げてみせる。

「よくもまぁそんな迷信をバカ正直に信じるなぁ。ダックにはそんなの尻尾の先まで信じる奴はいないぜ」

「ははは、軍曹は二言目にはそれだなあ」




そんなこんなでユーリはジョー軍曹に『回収』された。

「精霊はともかく、門番があまり不安そうにするモンじゃないぜ。そういうのは、伝染するからな」

「そうね、気をつける」

歴戦のダック戦士のお言葉に、ユーリは素直に頷いた。
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