ようこそ、ビュッデヒュッケ城へ!

□ヒューゴ君はパティシエになりたい
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宿屋の朝食バイキングにCLOSEの看板を出し、食事当番の面々も充分な朝食にありついて、ユーリは改めて当番員達に、今日はもう大丈夫よありがとう、と、解散の意を示す。
食事当番の特権として、めいめいがバイキングの残りものを見繕って土産に持ち帰る中、珍しくヒューゴが大人しい。普段なら率先して『残りものは福の乱』に参戦するはずのひとなのに。



「あのさ、ユーリさん」

人がはけるのを待って、ふたりきりなったのと同時にヒューゴに呼びかけられて、ユーリは洗い物の手を止めた。
炎の英雄はやけに深刻そうだ。何かあったのだろうか。

「なぁに? どうしたの?」

なるべく何気なく、話しやすい雰囲気を心がけ――ユーリにとって、責任ある立場の少年に相談事を持ちかけられるのは珍しいことではなかった。
古くはファレナの王子殿下、『魂喰い』の主であるマクドール家の坊ちゃん、最近ではビュッデヒュッケ城の城主様、等。
彼らは総じて身近に頼りになる大人達がいた。しかし、近しい者にだからこそ言えないこともあるのだろう、とも思う。

ヒューゴもまた、そのパターンなのかも知れない。
炎の英雄の志を継ぐ者として、オレンジ軍の主として、真なる炎の紋章の所有者として。
ヒューゴは本当によくやっている。だからこそ、潰れないで欲しい、と思う。

そんな、祈るような気持ちのユーリに対し、ヒューゴは何か吹っ切った人特有のはきはきとした潔さでもって言い放った。

「ザッハトルテの作り方、教えて」
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