捏造幻想水滸伝X〜漆〜
□asura
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明け方の空にちらちら風花が舞っていた。
日の出にはまだ早く、月も姿を消しつつある時刻。1日でいちばん寒い時。
ユーリは力ない足取りで、関所内の即席街に向かい歩いていた。
石碑は何も答えてくれない、その下に亡骸が眠っていてもいなくても。
…当たり前のことだ。あのひとの時で散々思い知ったことだったはずなのに。
アストリア――誰よりセーブルを愛し、案じていたひとだったのに。
永遠の眠りを眠る場所が、よりによってあのひとの隣。
縁もゆかりもない所にいきなり連れて来られて彼は戸惑っているだろうか、苦笑しているだろうか。
えー、オレってば何でこんなトコいんの〜? なんて、のほほんと慌てる彼は、容易に想像できる。
何だってこんなトコ連れてくんだよ! と激怒する彼は…どうしても想像できない。
東の空が白み出す。
風花は、風花と呼ぶには少々激しいのではと思う程に強くなっている。
あんなに明るい月明かりだったのに…あてにならないものだ。
小雪の中、外にいるのは哨戒の当番兵くらいのもの。
多少の無理を押してでも屋根と塀のある建物を完備しておいてよかった。
ここは『西の関所』になるまでは『フェザーウィンド』だったのだ。
乱稜山からの山風と、綺麗な風花が名物だった、小さな街。
きっと素敵なところだったのだろう。あのひとの昔語りでしか知らないけれど。