捏造幻想水滸伝X〜漆〜
□月のしずく
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総員退避の命を下して数日。
セーブル警備隊は西の関所まで後退した。そして入れ替わるように、アーメス兵がセーブルの街を占拠する。
勢い込んで乗り込んで来たアーメスは、さぞや落胆するだろう。
街はもぬけの殻、薪の1本、米粒のひとつだって手に入らないのだから。
西の関所。
ここが今後の主戦場となる。
かつてフェザーウィンドと呼ばれた街の跡地を改造して関所に仕立てた場所である。
夕暮れのオレンジに染まる防壁上からの眺めは、ユーリに強烈な既視感を与えた。
――またここで時間稼ぎか。
あの頃の私は何を守ろうとしていたのだろう、とユーリは自嘲する。
亡びて久しいフェザーウィンドに立て籠もり、ここを死守せよとばかりに戦った『最後の守り手』たる我々は。
友軍のはずのセーブルに背かれ、太陽と河の守護者を名乗るサウロニクスには見捨てられ。
エストライズは自分達のことで精一杯。
本来なら先頭に立って仕切って欲しかった女王家はまったくの没交渉。
ファレナ中から見放された状況で、けれどそのファレナを守る為に戦え、と。
…よくもまぁ言えたものだ、あの頃の自分は。
――今も、同じようなものか。
所詮は時間稼ぎ。『その時』が来るまで、血へど吐いてでも続ける苦しいマラソン。
時間稼ぎの篭城は、待っていれば強力な援軍が来るとわかっていてこそ有効な策。
あの時は、当てなどなかった。でも今は――。
――全然違う、同じじゃないわ。
あの頃とは決定的な差異がある。
ユーリは王子軍からの派遣将としてこの地に赴いている。
つまるところセーブルは、王子軍のバックアップが確約されているということ。
背後には具体的な守るべき何かが…すなわち、ロードレイクとそこにいる人々が控えているということ。
そして何より、戦い慣れた兵士達は、守るべき何かの為に積極的に自発的にここに在る者だということ。
あえて具体的に守るものを持たない身軽な者ばかりをチョイスしたあの時とは違う。
守るべきものを守ろうという志。…それが時にどんな悲劇を招くとしても。