捏造幻想水滸伝X〜漆〜

□reqiem 〜and then〜
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ユーリはアストリアの亡骸にひざまずき、しばし呆然としていた。
彼女は数ヶ月前――王子軍の派遣将としてこの街へ来る前の、本拠地でのやりとりを思い返していた。
ルクレティアと交渉した『お願い』のうちのひとつ、五行上位の紋章を、ジーンにおねだりした時のこと。

お客様の選択に口を出す気はないけど、あなたなら大地より流水の方がいいんじゃなくて? と、ジーンは言った。
私がつけるんじゃないもの、とユーリは返して、結局アストリアの為の大地を貰い受けた。
欲がないのね、と、謎めく口調で魅惑的に微笑ったジーン。…あの時はそれが最上の選択だと思っていたけれど。



――流水を選ぶべきだった…。

自分の為、ではなく、誰かの為に。他に適任者がいないからなどと変な遠慮なんかせずに。
流水のレベル4。あれがあれば『母なる海』で、あるいはアストリアは蘇ったかも知れない。
そしてユーリは宿しさえすれば、それが使える力があったのだ。

ジーンは見越していたのかも知れない。
だからこそ珍しく、あんなふうに食い下がって来たのかも知れない。
救えたかも知れない…そんな可能性をまた、残してしまった。それが悔しい。



刻を戻せるのならいっそ、あの本拠地での選択の時まで…いや、マドレーヌおみくじとチーズケーキ争奪戦が主要バトルだったあの平和だった頃まで戻りたい。

アストリアは笑っていた。いつも笑っていたし、笑わせていた。
他のひとが口にすればスベりそうな「三度のメシより食事が好きだ♪」でさえ、彼が発すれば秀逸なギャグと化す。

いつも誰かを気にかけていて、いつだって誰かに慕われていた。
彼自身は表立って誇示することはなかったが、誰かの為に誰よりも優しく強くなれるひとだった。





…だからこそこんな結果になってしまったのだろうが。
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