捏造幻想水滸伝X〜漆〜
□tiger in my Love 〜後編〜
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うろうろそわそわと彷徨っていると、お供の兵をわんさと引き連れたジダン・ギュイスと鉢合わせしてしまった。
「おや、これはティニー様。とっくに打ち合わせに向かったものとばかり」
「あのっ…ちょっと迷ってしまって…」
「ご案内いたしますぞ」
ユーリは瞬く間にアーメス兵に囲まれた。
これは完全なる監視体制というものだろう。
多分、怪しまれたのだ。あぁ、完璧にジ・エンド。
有無も言わさぬ勢いで、ジダンはユーリをとあるテントに誘った。
背に当てられたブタ丸太の体温が気持ち悪い。
「わたしに触れるな、と」
何度言わせるのですか、と、風邪声で凄む。
ジダンはニヤニヤ笑っている。黄ばんだ歯がおぞましかった。
「わたしに触れてもいい殿方はシュラ様だけです」
相手の反応見たさに、ユーリはかまをかけてみた。
ジダンはニヤニヤ笑いのまま、さらに手に力を込め、テントにユーリを押し込もうとする。
「おそれながらティニー様、そう思っているのはティニー様だけなのではありませんかな?」
ジダンのこの言葉、果たしてどう解釈したものか。
おそらくティニーは、シュラ・ヴァルヤとは直接面識などなかったのだ。
しかし、いやだからこそ、最期の思念はあんなに強く、純化した。
まだ見ぬ恋、というものもある。会わざる恋、というものも。
ティニーにとって『シュラ』は、自分で勝手に創り上げた偶像だったのだ。
「約束したのです、あの方と。
もう自分を粗末にしないと。もっと自分をいたわってあげるようにする、と」
言いながら、妙な既視感。何だろう、誰がこんな風に言ってくれたのだっけ…。
「わたしが用があるのは休憩用のテントではありません、先発隊の天幕です。
もし、不埒な用向きでの『ご案内』なら…」
ユーリは右手を上げた。
「紋章行使も辞しません。『雷の嵐』の味、とくとご賞味なさればよろしいですわ」