捏造幻想水滸伝X〜漆〜

□遺書
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ユーリの夫は良くも悪くも騎士だった。
気高く志高く、折り目正しく礼節を持って、常に自身と仕える者とに誇りを持って。
時にカタくて融通が利かないと揶揄されるくらい、全身全霊で『騎士』を体現していた。

あのひとの最期は、あまりにも『騎士』であり過ぎた為に招いた、当然にして最悪の結果だと、ユーリはようやく考えられるようになっていた。
生き残りたければ、信念を曲げなければならない場面もある。
増してやあの時――あのひとの最期の刻、あのひとにはあのひとを慕う大勢の部下がいたのだ。

自分ひとりのことならば、自身の信念に則り騎士道に殉ずるのもいいだろう。
だがあの時、あのひとは自分の信じる道のみを見つめていてはいけなかった。
あのひとが愚直なまでに故ラウルベル卿への筋を通した結果、あのひとに付き従う沢山のひと達を巻き添えにしてしまったのだから。



――ねぇ、あなた。私はあなたと同じ轍を踏む気はなくてよ?


騎士道精神に反する所業と罵ればいい。卑怯者の汚名も謹んで受けよう。
私の信念は…そんなものがあるとすればだが、自分が生きて、とにかく生きて、そして自分と共に在るひと達も、生き残らせること。

死んでしまっては何にもならない。死んだらそこで、すべて終わりだ。
もうこれ以上、殉職者という名の犠牲は出したくない。…いや、出すものか、決して。
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