捏造幻想水滸伝X〜陸〜
□sang
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エルト率いる警備隊員(@残留組)選りすぐりメンバーと盗賊のアニキ達は、きっちり成果を挙げてきた。
いや、狙った以上の成果を挙げて帰還した、という表現が正しいか。
朝が来る前にはもう捕り物は終わっていた。
ユーリは、ソリス・ラウルベルと共に、がらんどうのような執務室で、夜明けを待つ。
朝の訪れと共に、待ち人がやって来た。
単騎で西の関所から駆けつけて来たブルーム・フリージもまた、疲労が色濃く残る顔つきだった。
「リング卿が…というのは、本当ですか?」
再会の挨拶もそこそこに、ブルームは尋ねる。
にわかには信じられないという風情のブルームに、ソリスもユーリも無言でただ、頷く。
イベント前の腹ごしらえとばかりに、立ったままでの早めの朝食をしたためながら、
ユーリはブルームに、一切を説明してやった。
ブルームもまた、エルトと同じく『関所組』で、ここ最近の街の事情を知らない。
「そうですか、そんなことが…」
インスタントコーヒーのカップを手に、ブルームは顔を曇らせる。
「彼は私の友人だったのです。
気の合う友達とは申せませんでしたが、子供の頃からちょくちょく交流はありました。
警備隊を目指す私を、彼は嗤ったものです。成り上がりの真似をすることはないだろう、と。
ゆくゆくは街を動かすビックな男になってやる、が口癖でした。
警備隊で紋章兵などやっている私を、組織の歯車風情がと蔑んでいました。しかし…」
「確かに、『街を動かす』大それた真似はなさったってワケね」
ユーリはブルームの演説を打ち切った。
そして、彼のパンとコーヒーがまったく減っていないことに気づき、促す。
「食べなさい」
ユーリの珍しい命令形に、ブルームは驚き、目を見開く。
「朝食には早すぎる時間だし、お友達がこんなことになってショックなのもわかるわ。
でも、食べられる時に食べておかないと」
戦場では、時間だから食事、というわけにはいかない。そして今、この街はいつ戦場になってもおかしくない。
ユーリは兵隊としての正論、戦士の心得を実践しているだけだった。
見るとソリスは既にコーヒーを飲み干し、使い捨てのカップを小さくたたんでいるところだった。
彼は立場的には貴族で領主だが、戦うひとの作法を知っている。
今は柔らかなパンと温かいコーヒーだが、事が進むにつれ、それが乾パンになり干し飯になり、
そのうち火を起こすにも難儀して、白湯さえ飲めなくなる。
使い捨てのはずの容器を使い回すようにもなるだろう。
そしてついには、その辺の雑草まで引っこ抜いて食べるように…は決してならないように手配しているつもりだ、今回は。