捏造幻想水滸伝X〜伍〜

□demento 〜前編〜
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目覚めは唐突だった。
抱き留めたリオンの血が自分の手のひらを染めるリアルな感覚に怯え、シェラヴィは跳ね起きた。

シェラヴィはベッドの上、シーツに両手をごしごしとこすりつける。
当然、シーツは白いまま。どんなに目を凝らして自分の手を見つめたところで、赤く染まってなどいない。
しかし彼は、確かにあの生々しい鉄の臭いを嗅いだ気がしていた。

応接ソファーでは、ユーリが書物を読んでいた。
シェラヴィの様子を気に留める風もなく、あら、お目覚めですか、と普段通りに笑いかける。
もっとも彼女のことだから、気がついていないわけではなく、あえて流していてくれるだけなのかも知れないが。
夢遊病者のような足取りで、シェラヴィは応接ソファーに近づいた。

「何読んでるの?」

ユーリの隣に座り、尋ねる。おそらくここは、ダインの定位置なのだろうが、彼がいない間は構うまい。
彼女は素直に表紙を見せてくれた。
古びた本は、『ファレナ剣士列伝』。シェラヴィだったら好んで読むようなジャンルではない。

「悪い夢は人に話すといいんですって。逆夢になるといいますから。…って、死んだ夫の受け売りですけど」

何気ない口調でユーリは言う。
その何気なさが、彼女もこれまでの目覚めで、幾度となく悪夢に飛び起きたことがあったのだろうと思わせた。

「僕は…」

泣かない、とシェラヴィは、強く強く自分に言い聞かせる。

「自分が強いと思ってた。
 実際、僕は強いんだよ。なめてかかってきた暗殺者の類だって、自分で返り討ちにしてたし」

実のところ、シェラヴィには女王騎士という名の護衛など必要ないのでは、という声もあったくらいだ。
女王候補の女子ではないのだから、という意も多分に含まれていただろうが、
シェラヴィはその声を賛辞として受け取っていた。

それ以前に、彼自身の気質が『騎士』だった。
騎士とは、弱き者の盾となり、剣となる者。
守るべきものを守る為にはまず、自身が強くあらねばと、鍛錬も欠かさなかった。
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