妄想幻想水滸伝X
□call
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あなたのその声で、名前を呼んで欲しい、と。
そう願うのは、我がままだろうか。
ユーリの声は、甘いがべたつかず、通りはいいがうるさくない。
ダインが知る限り、女性の声としては最上級のものではないかと思っている。
その声を、一時的にだが失い、そしてまた、取り戻した。
もしかしたらもう二度と聴けないかも知れないと思っていただけに嬉しくて、
他愛のない質問をしては答えさせ、などという、およそ非生産的なことまでしたぐらいだ。
流石に変だ、と、いぶかしんだユーリが、
さっきからその質問に何の意味があるの、とにじり寄ってきたので、正直に答えた。
あなたの声を、聞いていたかった、と。
ユーリは驚き、ダイン殿らしくもない、と呆れたが、
「それなら、これでも読んであげましょうか?」
トーマにでも読み聞かせるような絵本を持って、小さい方のベッドに腰かけた。
「今さら『ファレナ昔話』もないでしょう」
ダインはそう言ったが実のところ、
自ら火に飛び込んで女王に身を捧げたうさぎの話を、彼女に読ませたくないだけだったりする。
「じゃあ、そうねぇ…『華麗なる一族・シルバーバーグ家』とか」
「そんな色気のない」
「色気なんか求めないで下さいよ。それなら、『紋章学入門』は?」
「却下」
「んじゃ、『黎明新報・号外』?」
「論外です」
「んもぅ、ダイン殿ったらさっきから子供みたい」
ユーリはふくれて言った。
「そんなんじゃいっそ、子守歌でも歌ってあげちゃいましょうか?」
ユーリとしては軽いジョークのつもり、もしくはからかっているつもりだったのかも知れないが。
「…悪くありませんね」
真に受けたダインが食いついて、結局ダインが眠るまで、片っ端から良い子の為の子守歌を歌ったり。