捏造幻想水滸伝X〜弐〜

□黒幕登場・前編
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その日の朝。
文字通り朝食の真っ最中だった宿舎の食堂に、シェラヴィがリオンとサイアリーズを伴って突然現れた。



「あ、王子様! おはようございます!」

これって何のバトル? と、シェラヴィが驚いた程の朝食争奪戦の中、
アゼルがいち早く気づいて、変声期前かと思うような声で元気に挨拶をした。

「…ったく。朝から無駄に元気だね」

その甲高い声は頭に響くよ、と、サイアリーズはこめかみを揉む。
ユーリは挨拶も忘れ、目を見張った。
サイアリーズの朝は遅い。
正確を期すなら、寝起きが殺人的に悪い。
今、彼女がここにいる、ということは――。

ユーリはフライパンのウィンナーを大皿に盛ってカウンターに置き、
シェラヴィ達の元にとととっと駆け寄り、おもむろに優しさの流れを放った。

「おはようございます。…ご無事で何よりでした」

「ああユーリさん、ありがとうございます…」

泣かんばかりのリオンの頭を、シェラヴィはよしよしと撫でてやりながら、

「ご愁傷様って言ってよ」

と、もちろん冗談で言う。

「それ、シャレになってませんから」

ユーリはため息をつき、苦笑を返す。

「隊長殿は今出てます。領主様のお呼び出しがありまして」

「ああ、きっと僕らの用件と一緒だと思うよ」

シェラヴィは『王子』の顔で、ちょっとユーリさん耳貸して、と、人差し指でこいこい、のジェスチャー。
ユーリが素直に近寄ると、彼は背をかがめ、耳元で囁いた。

「『連絡』、来たよ。今日午後決行」

普段は涼やかな少年らしい声だと思っていたが、
トーンを落として吐息のように囁かれると、別人の声のように思えるから不思議だ。
思わずぴくん、と身を竦めてしまう。

「あれ、くすぐったかった?」

「…ちょっとだけ」

「ふーん?」

小悪魔の笑みでシェラヴィは肩をすくめ、
それから改めて、といったふうに、食堂内を見回した。

「それにしても、戦争みたいだね」

シェラヴィの言う通り、バイキング形式の朝食は、
あちこちでミニバトルが繰り広げられていた。
やれお前は卵盛り過ぎだの、コーヒーまだ入んねぇのだの。

「今日の今日で『決行』ですか?」

食欲に支配された野獣どもは誰も聞いてはいないだろうが、ユーリは小声で確認を取る。

「まぁ、あちらさんはこっちの都合なんざどこ吹く風、だからね」

サイアリーズが皮肉げに言い放った。

「でもこっちとしては、この時を待ってたわけだからね。
 構わないよ、今日の今日でも。…負ける気、しないしね」

シェラヴィが『王子』の顔のまま、自信たっぷりに言い切った。

「同感です。ではこちらは、ギャラリー集めに奔走しますわ」

ユーリも戦闘中の顔で、シェラヴィの尻馬に乗る。

「せいぜい大ごとにしてやろうじゃないか。…おい、みんな!」

サイアリーズが姉御よろしく声を張るのに、食堂中の目が一斉に彼女に注がれた。

「今日の午後、面白いコトが起きるよ。友人知人、誘い合わせて見においで!」

「…だからって、お仕事はサボっちゃダメよ?」

サイアリーズの誘いに色めき立つ兵達に、ユーリがさっくりと釘を刺した。
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