昼下がりのティータイム

□I doll
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午後3時。世間的にはおやつの時間だ。
結局ユーリはなし崩し的に、サロメの私室に通されていた。

押しに弱いという自覚はある。昔、上司に散々指摘された。好奇心は猫をも殺すという格言ももちろん知っている。
だからこそ、当初は何が何でも「お断り!」と意気込んでいたのだが…。

決め手はサロメの態度でも表情でもない、何気ないひとことだった。
世界と歴史について、あなたと語り合いたい。
サロメはそう言った。

世界『の』歴史について、ではなく、世界『と』歴史について。
そこが妙に引っかかって気になって、ついぱくっと食いついてしまった。
竿を引く手応えを感じたのだろう、サロメはあくまで淡々とした調子は崩さずに、

「子供の頃、歴史学者になりたかったのです」

なればいいじゃない、とユーリは半ば本気で言った。
騎士団を引退した後にでも、ライフワークにすればいい、まさかあなた一生を騎士団員で終えるつもりなの、と。
もし彼がyesの返事を寄越そうものなら説教してやろうと思っていた。生涯騎士団員とはすなわち、戦いで命を落とすと同義。

サロメがふっと笑ったような気がした、もしかしたら見間違いかも知れない。
あら、と思ってまばたきしたらもう、いつもの見慣れた凪いだ表情だったので。

「アップル殿に勧められたのです。ザクソン卿夫人…いえあなたとは、有意義な語らいの刻が持てるでしょう、と」

なぁんだ、とユーリは相好を崩す。
アップルはカテゴリ的には軍師だが、民俗学者としての顔も持っている。
この土地に来たのも『先生』の伝記を完成させる為とあとひとつ、グラスランドの各クランの生活を肌で感じようという、いわゆるフィールドワークの側面もあるのだからして。

アップルは友人と言っていい人物だ。短い付き合いではない。
それこそ彼女が「アップルちゃん」だった頃から知っている。

「アップルさんからの紹介だったの。それ早く言ってよ。無駄に気を回しちゃった」

友達の友達は皆友達、とまでは言わないが、ユーリの警戒レベルは上限100から80くらいには下降した。





世界と歴史について。
そういう表現をするサロメは、顔に似合わず(って失礼!)詩人かも知れない。
読書をするひとなんだろうな、とも思った。

彼が本当は何を訊きたいのか、何を狙っているのか。
見当はついていたが、いったん棚上げすることにした――消すのなら、いつだって消せる。
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