昼下がりのティータイム

□I doll
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ユーリは自慢ではないが、人の名と顔を一致させるのがそんなに得意ではない。
時々挨拶する程度のつき合いなら、

「あ、こんちは〜最近どう?」

と元気に言葉を交わしておいて相手が去った後、誰だっけあのひと? となることもよくある。興味がなければ顔さえ忘れる。
数多の隊員の顔と名前を一致させ、その上その人となりまで把握していたどこかの街の領主様の特技は神業とさえ思えたものだ。

だが現金なもので、相手の人柄が好きだったり、あるいは相手に強烈なエピソードがあったり出逢いのインパクトが強かったりするともう、忘れようにも忘れられない。
サロメの場合は、後者であった。

ユーリは自他共に認める『トーマス様原理主義者』で、トーマスを追放しようとしたゼクセンの手先にはあまりいい印象を抱いてはいなかった。
騎士団の下級騎士に対しては、下っ端連中は気の毒だなぁとある種の同情を覚えるが、このひとは下っ端の下級騎士ではない。

元々、ゼクセン中枢には嫌悪感しかなかったところに、例のイクセの村の件。
生き残った者が生きていく為にどうにか生活を立て直そうと立ち上がりかけたところに、視察を気取ってのこのこやって来て。
おっとり刀でいい気なものね、と思ったものだ。

行きがかり上、共同戦線を張ることになり、同じ城で一緒に暮らすことになってからというもの、グラスランド民が鉄頭と蔑むゼクセン騎士にも色んなタイプのひとがいることを知った。
中には個人レベルでそこそこ親しくなった者もいる。

だが、スイーツ同盟(笑)メンバーのレオや、
劇場支配人にマークされまくって一応しぶしぶのポーズをとりつつ実は結構ノリノリで演劇等にも積極的に参加して、共演機会も多いパーシヴァルのような密な接点は、サロメにはない。

本当に、いきなり城に押しかけてきた沢山のひとの中のひとり。…の、中でも相当、エライひと。
ユーリにおけるサロメの認識とは、こんなものだった。



特に親しいわけでもなく、お城のお仕事で一緒になるわけでもない。
ユーリの『仕事』はもっぱら城の雑務。
それこそ宿屋のお手伝いやらお洗濯やら城主様の使い走りやらで、サロメは連合軍の中枢の位置づけのひと。


そういうひとがあえて人目のないところで接触してきて、あまつさえ「ザクソン卿夫人」と呼ぶ。
礼を尽くす必要はないだろう。
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