捏造幻想水滸伝X〜漆〜

□tiger in my Love 〜後編〜
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先発隊のテントの中は、半ばやけっぱちのような陽気さだった。
正に戦時中の、明日死ぬかも知れないという覚悟を決めた男達の、独特なテンション。

免疫がなければ、コイツら何か変な薬でもやってんじゃないかと疑いかねない雰囲気だが、ユーリはこの空気をよく知っていた。
前線を張る兵士の開き直り。手練れの傭兵部隊なんかにもありがちな。



たじろがない少女が、男達には少なからず意外だったようだ。

「わたしが前にいた隊でも、こんな感じでしたから」

ユーリは手短に、『ティニー・スパルナ』の境遇をさらりと語った。
本国からの補給隊、物資に毒が仕込まれていたこと、その後、セーブルの小隊に襲撃され、部隊が全滅したことも含めて。


「セーブルもひでぇことしやがる」

「毒物は少なくとも、セーブル側の工作ではありません」

ユーリはここでもしっかり弁明した。
補給隊到着からのタイムラグ、どうあがいてもセーブル警備隊には不可能だったことを、努めて客観的に。

「狙われていたのはわたしだったのかも知れません。わたしの部下には、そう申す者もありました。
 被害妄想じみていると、わたしは思うのですけれど…」

ユーリはパピヨングラス越しに、視線で破けたケープを示し、

「伯母さまは否定して下さいませんでした」

ウォッホン! とわざとらしい咳払いが、すぐわきで。
ジダン・ギュイスが睨んでいた。

「ジダン様、こちらは明日出陣する先発隊の会合です。関係者以外はお引き取り願います」

ユーリは風邪声で、静かに言った。

「いやいや何をおっしゃいますかティニー様。
 ワシはあなた様のお力になりたいと、そればかりを願ってですね――」

「明日、あなたも一緒に来て下さるのですか、ジダン様?」

口元に笑みさえ浮かべ、ユーリはパピヨングラス越しにジダンに凄んでみせる。
何が「お力になりたい」だ。おおかた、マハの命令で監視しているだけだろうに、見え透いたことを。
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