捏造幻想水滸伝X〜陸〜
□genesis 〜前編〜
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扉が開いた。
ドクター・クロードは極度の疲労で目を落ち窪ませていた。
しかし、彼の表情は老翁にふさわしくない程晴れ晴れとしており、何か大きなことをやりとげたひと特有の、得意げなオーラを発散させている。
「とりあえずは、成功じゃ」
クロードは開口一番、達成感、とでかでかと書かれた顔をして宣言した。
アストリアが歓声を上げて、ドクターに抱きつく。
「センセー、ありがとー! ホントにありがとー!
…んで、お代のコトなんだけどさー、いきなり一括ってちょーっと厳しいからさー、ローンとかに…」
「バカモンが!」
クロードは満面の笑みで怒鳴りつけた。
「お前さんのようなぺーぺーの警備隊員から施される程落ちぶれてはおらんわ!
ポッチなら要らん。貴族のバカモンが道楽のようにたかって来たら、そっちから巻き上げるわい。
それが人の道じゃ」
老医師はお決まりの台詞でアストリアを小突いた。
やはりクロードは腕のいいお医者さんで、いいひとでもあるのだ…思想はちょっと、いや、かなりアレだが。
「それよりドクター、大変なの」
ユーリは感動的な場面をぶち壊す報告をしなければならなかった。
「ヒルダさんが…お産が始まっちゃって…キャンプまでも間に合わなくて…」
まあ落ち着け、と、クロードにどうどう、と宥められ、ユーリは少し落ち着きを取り戻した。
おかげでどうにか、軍隊式の業務報告に徹することができた。
「…以上により、今、ラウルベル卿夫人が付き添って下さっています。
しかしながら、あの様子ではあまり長くは…」
随分早かったな、と、クロードは眉根を寄せ、
「逆子で双子な…。メリッサには荷が重かったか」
ひとりごとのように呟いて、次には病室に取って返すと、老翁とも思えぬ素早さで診療鞄に必要なものを詰め、
「オグマ! ワシはちぃと出て来る! こっちは頼んだぞ!」
奥のベッドに向かって叫ぶと、大がかりな術後の疲労など忘れたかのような緊迫感を持って、命じた。
「さあ、早く案内せい! 事は一刻を争うんじゃろうが!」