捏造幻想水滸伝X〜陸〜

□genesis 〜前編〜
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ユーリは病院の待合室でじりじりと、待った。

「まあ、座んなよー」

長椅子にかけたアストリアが、自分の隣を指して誘う。

「こーなったらもー、焦ったってしょーがないでしょー」

言ってアストリアは、携帯用の非常食をぽりぽりかじっている。
彼のこの手の行動は、空気読めよと非難されがちだったが、
ユーリは彼のこういう、どこか1本芯の通った図太さとでも言うべきものを、感心しつつ讃えていた。

アストリアは戦士なのだ、根っからの。
休める時に休み、食べられる時に食べておく。でないと保たないと理解している。
理解していても実践するのは難しいことでもある。

ユーリはアストリアの隣に浅く、腰かけた。目の前の扉が開く気配はない。
一端座ってしまうと、慢性的な睡眠不足と蓄積された疲労とが一気にどっと襲いかかって来る。





しばらく、うとうとしてしまったらしい。眠るつもりはなかったのだが。
知らず知らずのうちにアストリアにもたれかかっていたユーリは、はっと気づいて背筋を伸ばし、座り直した。

ソレンセン作『ケータイからくり時計1号』を見ると、意識を失っていたのはほんの数分。
アストリアは、ついぞ見たこともない厳しい顔つきで病室の扉を見つめている。
祈るように…というよりは、呪い殺しでもしそうな目つきだ。


「ごめんなさい…私、寝ちゃってた」

ユーリが謝罪すると、アストリアがふっとこちらを向いた。
いつもの見慣れた、ぬーぼーとした表情で、いつもののほほんとした雰囲気を纏い直して。

「疲れてんだよ、もちょっと休んでていいよー。大丈夫、襲ったりしないからさー」

いかにも彼らしい言い草に、ユーリは小さく笑った。
そして、病室の気配が変わったのに気づく。

「…終わったみたいだなー」

アストリアも気づいた。
ふたりは、死刑宣告を待つ囚人のような気分でただ、目の前の扉が開くのを待つ。
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