昼下がりのティータイム
□茶飲み話で軍師論
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少しばかり濃く入ってしまったダージリンに、サロメはミルクを入れた。
「わたくしはマッシュ派で、シーザー殿はレオン寄り。アップル殿については尋ねるまでもありませんな」
重い空気を変えようという意図でなく、サロメは言った。
ユーリの『ざっくり考察』はサロメの関心を引いていた。
「他の方はどうでしょう?
貴女とこれまで縁のあった、いわゆる軍師と呼ばれる方達の――」
「サロメ様、ホントにそーゆー話好きよねぇ」
と、ユーリは呆れたように、
「縁のあった、なんてカワイイ表現やめてくれない? いらんわそんな腐れ縁。
もーホント軍師なんてどいつもこいつもロクでもない!」
「それはどうもすみませんでしたな」
「いやあの、サロメ様は例外よ…うん、多分…」
もごもごと言い訳するユーリにサロメは声を上げて笑った。
「そうはおっしゃいますが、メルセス卿とは良き友人でもあったのでしょう?
わたくしは『ファレナ列伝』の中では特にザクソン卿夫人とルクレティア・メルセスに興味を覚えておりまして」
「強火のオタの推し活スゲェな…」
ぼそり、とユーリは呟いて、ダージリンをひと口。そしてそそくさとミルクと砂糖を入れた。…やはり少々濃かったか。
「ルクレティア様は…そうね、ある意味では友人と言っていいくらいのひとだったかも知れないわ。
表面上は茶飲み友達兼飲み友達」
「ちょうど今の貴女とわたくしのような?」
「うーん…いや、どーなんだろ…」
ユーリは、ちょっと困ったな、というように目を眇めて、
「ルクレティア様とお茶って、私にとっては鬼門だったの。
うっかりすると、どこぞの山頂から敵に向かって原罪全力出力で打ち込んでこーい! とか、黒星前提の撤退戦の将を某隊長さんの代わりに引き受けてね☆ とか。
何なら黄昏の主を止めてちょ♪ なんて無茶苦茶な無理難題をふっかけられたりとかしてね」
あぁ…と、サロメは嘆息した。
果たしてそれらを無理難題の一言で片づけてしまっていいものかどうか。
「でもそれ言ったらデュナンの正軍師シュウも大概よ。
人の弱みにつけ込むという点では、彼は私が遭遇した『軍師』の中でも群を抜いてたわ。
利用できるものは何だって利用する。それがたとえ年端もいかない幼女であったり、淡い恋情にも似た濃ゆい友情であったとしても、ね」
やり口が汚いわ、と、言いつつもユーリは『デュナンの正軍師』には一定の評価をしているようである。
「シュウの資質はマッシュ様よりレオンに近い。マッシュ・シルバーバーグに破門されたのもさもありなんってトコね。
でもあんな男でもアップルちゃんのことは妹のように可愛がってたから…」
ユーリはショートケーキを端からお行儀よく気を使って食べて、けれど結局倒してしまって悔しがっていた。
サロメはつい口角を上げる。
この方は、人の世の半分を滅ぼすだけの力を有しているというのに…こんな他愛ない無邪気さが、何とも言えず愛らしい。