昼下がりのティータイム

□茶飲み話で軍師論
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「『レオン派』と、『マッシュ派』と。
 ざっくり分けるならサロメ様は『マッシュ派』ね」

唐突に話題が飛んだ。
2杯目の茶葉を選定していたサロメの手が止まる。

「マッシュ派、ですか…」

ふむ、とサロメはユーリを見やり、小首をかしげて、

「シルバーバーグに派閥があるとは存じ上げませんでしたな」

「私が勝手に分類しただけよ」

「それはそれは」

ははは、と笑ってサロメはダージリンの缶を手に取った。2杯目はこれにしよう。

「では貴女の分類では、シーザー殿は?」

「そうね…彼は才能の質ではレオン寄り、なのかしらね。どっちが優れてるかとかいうことじゃなくて、ね」

「なるほど」

納得し、サロメは茶葉を計量し、ポットに投入。
なるほど、やはりシーザーにはアップルというストッパーが必要不可欠というわけか。

「マッシュ・シルバーバーグをわたくしは直接には存じ上げませんがユーリ殿、貴女のおっしゃることには同意します」

鹿爪らしくサロメは言って、ポットに湯を注ぐ。
柔らかな独特の芳香が部屋を満たした。心安らぐ香りだ。

「マッシュ殿については私もよく知ってるって程でもないの。
 私が知ってるのはホウアン先生…トウタ君のお師匠様から聞いた、マッシュ殿の最後の話についてだけ」

「マッシュ・シルバーバーグは確か、トランが共和国となった時には既にこの世にはいなかった、と――」

「刺されたのよ、リーダーの側近に」

ユーリの声音には切り込むような鋭さがあった。
表向き、戦死ということになっているマッシュ・シルバーバーグの最期。だがサロメは独自の調査でそれ以上のことを知っているつもりだった。
しかし、『つもり』はあくまで『つもり』でしかなかった。
温度の無いユーリの声に、サロメは茶を淹れる手を止めてしまった。
ユーリは淡々と、

「その男にとっては、あくまで主はテオ・マクドールだった。トラン解放軍のリーダーは所詮、サンチェスにとっては主の息子に過ぎなかった。
 マッシュ・シルバーバーグは彼にとっては主の仇でしかなかったの。
 戦いは大詰めだった。マッシュ様は若きリーダーを動揺させないが為に、自分を刺した男を赦した。その傷が元で、マッシュ・シルバーバーグは召されたわ。
 死の間際、解放軍の歓喜の声を聴きながら、マッシュ様はホウアン先生のお師様に言ったんだそうよ。リュウカン殿、私のしたことは果たして正しかったのでしょうか…と」

私はそれをホウアン先生から聞いたの、15年前デュナンでね、と、ユーリはさばさばと言った。
サロメはしばし沈黙した。長いこと無音の状態が続いた。
やがて、サロメは言った。

「その話は……リオ・マクドールには?」

「言わないわよ、言えるわけないじゃない」

駄々をこねる子供のようにユーリは首を振る。

「リオ殿にも、アップルちゃんにも、ビクトール殿にもフリック殿にも…誰にも。
 サロメ様、ただあなただけよ、こうして話したのは」

「……」

何とも言えない沈黙の後、サロメはどうにか絞り出すように言った。

「まったく…貴女の昔話は聞くのが怖い」
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