捏造幻想水滸伝X〜陸〜

□昔取った杵柄・シーフver. 〜前編〜
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ジュリアンとリカードは大型の手押し車に物資を山と積み、南下していた。
セーブルよりもさらに南――そう、つまりは敵地に突入しているのである。
一触即発のこの時期に国境越えなど、狂気の沙汰だ…と、普通なら思うところであるが。

一介の盗賊に過ぎない――ましてや、片方は鍵開けの腕だけで渡世している子供である――彼らが何故、気が触れたとしか思えない行動に走っているのか。
その理由は、少々前に遡る。





『フツーに盗っ人のチャンバラ』より、幾日か後。
彼らのアジトに、エルトが来た。
仕事中の合間を縫って、ふらりと現れた感じだった。

多忙な身であるはずの警備隊員はしばらく何も言わず、
みかん箱に腰かけてみたり、立ち上がってはうろうろしてみたり、あからさまに挙動不審だった。

ジュリアンは、まあ吸えよ、と煙草を勧めた。
エルトが何をしに――何を言いに来たのか、ジュリアンは何となく解っていた。

エルトは黙って煙草をふかし、子分のリカードが灰皿を勧めるまで、灰が落ちるのにも気づかずぼんやりしていた。

「らしくねぇな」

ジュリアンは笑った。
考え込んで言い淀むなど、まったくエルトらしくもない。

――すぱっと言っちまえばいーんだよ。

エルトの言い出しかねている申し出を、ジュリアンは既に受ける気でいた。
エルトは妙なところで律儀で、『アニキ』が絶対、という、体育会系にお約束な気質の男である。

警備隊に入ってからは『絶対』の対象が『ダイン隊長』にすり変わったようだが、ともかくも、自分が「コイツは」と認めた男につきたがる。
その辺、出逢った頃とまったく変わっていない。

「もうすぐ避難が始まる。ココも戦場になる」

「あぁ、そーだな」

ジュリアンは頷いた。

「アニキ達は、どーすんの」

「さぁ、どーすっかなぁ…」

おめぇ次第だぜ、とジュリアンは内心で呟いた。

一応、避難の際には商店街の連中のグループに組み込まれてはいる。
しかし、ジュリアン達は少々特殊な職業ということもあり、ソコの連中と上手くやっていけるかどうかは、正直微妙だ。
典型的な「コッチが気にしなくても、ムコウさんは気にする」パターン。
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