捏造幻想水滸伝X〜陸〜
□genesis 〜前編〜
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ユーリはわき目も振らずに白馬を走らせた。
メリッサたっての願いでエルト達にはああいう言い方をしておいたし、
メリッサ自身も努めて動揺を表すまいと自制していたが、あの様子ではおそらくヒルダはそう長くは保たない。
――とにかく、ドクター・クロードを。
その一念で、ユーリ史上最速のラップタイムでロードレイクに突入した。
…しかし。
「手術中!?」
ユーリは愕然とした。そんなの聞いてない、というのが彼女の正直な感想だった。
「オレの馬車で急患が出た」
ユーリと共に病院まで来てくれたアストリアが、沈んだ調子で告げる。
「心筋梗塞で、緊急手術。助かるかどうかは…何とも言えない」
元々体の弱い子だったんだ、とアストリアは呟く。
「まだ9年しか生きてないんだぜ? あんまりじゃないか…」
いつも人前で繕っている茫洋とした口調でなく、素の静かな声音でアストリアは言った。
「9年しか…って、決めつけないでよ」
ユーリは反駁した。
「ドクター・クロードはいいお医者さんよ、思想はちょっとアレだけど。
彼の腕は、私達がいちばんよく知っているはずじゃないの」
「…だなー」
アストリアはようやく笑った。
空元気には違いないだろうが、空元気も元気だ。