稲妻11小説
□嘘になれ
1ページ/2ページ
円堂の顔は全然綺麗で怪我なんて一つも無かった。でも円堂の頬を両手で触れてみると全く暖かみは感じれ無くて凄く冷たかった。
それでも俺は信じれ無かった。
円堂が死んだって事に。
――――――――――――
―――――――
今日はエイプリルフール。朝から嘘の騙し合いだった。そんな陽気な今日も通常通りに練習が終わった。しかし円堂は練習の終始顔を出さなかった。休むという連絡も入って無かったし、円堂は風邪ぐらいじゃ休む事など無いから部員全員で心配していた。
部活が終わったら円堂の家を訪ねてみよう、なんて鬼道と話しているとドアが勢いよく開いた。
ガァンッ!!!
「うわっ!何だ秋じゃないか…――どうしたんだその顔は?」
木野の顔は酷い状態だった。顔中から出ている汗と目から出る涙が混ざり合い髪も乱れてぐしゃぐしゃとしか言い様が無かった。
「………皆…ちゃん、と………聞いて………」
木野の言葉で部室は静まりかえった。先ほどまであった賑やかの面影すら無くなった。
木野が一回、ゴクと生唾を飲み喉を通らす音を鳴らすとまた涙をボロボロ流しながら口をゆっくり動かす。
「―――――……円堂くんが亡くなったわ……。」
人間、本当に驚いた時は声を上げる訳ではなく思考が一時停止すると聞いた事があった。
「………はぁ…?」
一番最初に口を開いたのは俺の隣に座っている鬼道だった。鬼道は木野の言葉を信じきっておらず最後は疑問形となっていた。きっと、いや必ず全員がそう思っていただろう。
『お前は何を言っているんだ?』と。
「…円堂くん。今日の練習来る途中で、事故にあって…………それで……そのまま。」
木野は泣きながらも一言一言ゆっくりと押し出してくる。残酷すぎる事実を。
誰もが放心状態だった。木野の言葉を最後に俺達は何分ぐらい沈黙していただろう。やけに時間が経つのが遅く感じる。部室には誰かの腕時計の秒針の音しか聞こえない。
「…嘘だ」
静寂の空間を引き裂いたのは豪炎寺だった。微かな声で呟いただけの言葉だったがそれは全員に聞こえていた。
「……円堂が死ぬはずがない。―――――…そうだ。お前ら全員して嘘を付いているんだ…今日はエイプリルフールだもんな。…全くそんな嘘誰が」
「豪炎寺くん。」
豪炎寺の言葉は木野が遮られ、豪炎寺はゆっくり木野の方を向く。木野はジャージの袖で汗と涙の混合物を拭っていた。そして袖で隠されていた顔が露になる。眉間に皺を寄せキッと豪炎寺を睨む。睨んでいるはずなのに怒気は感じとれず哀しみのみを感じさせた。
「…嘘じゃない」
それを聞いた豪炎寺は一気に血が上る。座っていたベンチからガダンと立ち上がると木野に近付き胸ぐらを掴む。
「きゃっ…!」
「!!豪炎寺、止めろぉ!!」
木野は豪炎寺に捕まれた勢いで壁に体をぶつけ痛みと驚きで小さく悲鳴をあげる。それを見ていた部員達が仲裁に入ろうと、豪炎寺を止めようとする。
「そんなの嘘に決まってる!!誰が、誰が騙されるもんかぁ!!」
ガッ!
豪炎寺が叫んだ瞬間、豪炎寺の右頬に激痛が走る。体が急に木野から強制的に離され勢い余って床へと転げ落ちる。
痛い。豪炎寺が自分の頬を殴った相手を見ると鬼道が立っていた。鬼道はまだ右手を強く握りしめいるらしく、ぷるぷる震えていた。
「…何をする鬼道。まさかお前も木野とグルなのか?だったら」
「誰がそんな事、嘘つくか!!!」
豪炎寺の言葉はまた遮られる。鬼道は今まで聞いた事も無いぐらいの怒声で叫ぶ。それもグランドで叫ぶよりももっと大きな声で。
豪炎寺は鬼道の言葉でやっと真実だと理解した。しかし脳は分かっていても体が嘘だと言い張っているのが分かる。豪炎寺は目から出る涙を合図に崩れ落ちる。身体も、心も。
「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ」」
豪炎寺は床に蹲り両手で髪をガシガシと掻く。信じたくない信じなければならない。そんな狂いかけた豪炎寺を見ている部員達は誰もが止まる事の無い涙を流していた。
あぁどうか神様お願いします。
一つ願いを叶えて下さい。
これから俺の人生に何が起こっても構いません。
だからどうか……――――
「嘘になれ…!」
―――――嘘になれ――――
完
(そんな願いは初めて聞いた)
(どうします?―――)