稲妻11小説

□君の名を呼べば
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「円堂…?」


海の波が砂と小石が混じった浜辺を押し寄せ、すぐに波は海の元へと引き戻る。また押し寄せ引き戻る、永遠とこれを繰り返し続けている。

沖縄の海は人の時間を遅くさせ心を癒してくれる。東京とは違う澄み切った満点の星空、澄んだ空気に海底も見える澄んだ海。
全てが無垢純粋で自分の汚れさをも洗い流してくれるのではないのかと思ってしまう。

しかし今の豪炎寺にはそんな海も憎らしくて堪らなかった。早く時間が経たないかと時計を見れば先ほどから10分と進んでいない事に無性に腹が立つ。

嫌気がさし視線を上に変えればそこには無限の小さな星。オレは独りだと思いしらされているように感じた。


「…円堂。」


つい口走ってしまう名前。周りには人っこ一人居ないため返事は来ない。むしろ当の本人が今どこに居るかすらも知らない。しかし名前を呼べばもしかしたらどこからか返事をしてくれるかも、そんな無駄な願望故に呼んでしまう。




もう夜中になろうと思う時間に豪炎寺はやっとの事腰を起こし立ち上がる。重い足取りで豪炎寺は浜辺を歩き下宿している家に戻る帰路を歩く。
ふと、後ろを振り替えると一人分の、自分の足跡が見えた。何故だかそんな事に悲しくなり涙が出そうになった。ぐっと堪え涙は抑えられたがその分、心の中に何かが溜まるのがわかった。

もう隣にアイツは居ない。
哀しくて悔しくて泣きたくて会いたくて死にたくて消えたくて。
そんな感情に豪炎寺は日々耐えてきた。







―――――――――――
――――――――


「―――…円堂?」

「ん、なんだ?」

「いや、何でもない。」

「そっか」


名前を呼べば君は返事をしてくれる。ここに居る合図をくれる。少し腕を伸ばせば触れ届く距離に居てくれる。ただそれだけの事が嬉しくて堪らなく幸せだった。

気を緩めると泣きそうになった。しかしいくら夜だと言っても月の明かりで隣からはきっと丸見えで泣け無かった。

キャラバンの上から見た星空は今までと何ら変わりはなく、今日もオレを照らしてくれる。


…うん。前まであんなに憎らしかった空だけど、円堂と見ればこいつも悪くない。


だってオレはもう
独りじゃないから。




――――――君の名を呼べば
(いつでも隣に君がいる)

           完



(お帰り、豪炎寺)
(………ただいま)






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