キスミー、キミー
□逃亡者
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全員、信じられない光景にぼう然となった。
一発は肩を、一発は顎を打ち砕いた。
「タローは?」
「生きてる。生きてるよ」
副操縦士はそれでふるえあがってしまった。
フィルモアは彼にタローに代わって操縦するように言い、ヘリは反転して基地に帰った。
第二デクリアのデクリオンはピートが戻ってこないので、当然詰め寄った。
フィルモアはピートが死んだといい、砂嵐を避けるため退避したと言った。だが、タローは瀕死の状態であり、仲間からの報告もあって、混乱した。
結局、北アフリカ師団の師団長であるケントゥリオンが出て、事態の収拾をはかった。
車輌隊が捜索に出され、飛行場前に検問が敷かれたが、発見できず、ふたたび捜索ヘリが出されたのは、二日すぎてからだった。
フィルモアは辞任したという。
「やつはPTSDだったんじゃねえかって話だよ。ほら、ヘリが落ちた後、真っ青になってたろ」
心理的にストレスの高い経験すると、数年たってから症状が出ることがある。
SASの隊員は並ならぬ心労に耐えて活動している。ヘリの墜落の時にその毒が発芽してしまったのではないか、とレニーは言った。
よい報せもあった。
撃たれたはずのソルはピンピンしていた。
「神が奇跡をもたらし、よき羊飼いを守りたもうたのだ」
と言って、壊れたニンテンドーを見せた。
抗弾ベストのケブラー繊維とニンテンドーのおかげで、弾は肺に届かなかったらしい。
ピートはソルを抱きしめた。
「心配させやがって」
「それはおまえだろ」
彼らはパブでおごると言ったが、ピートには先約があった。
ノリーが基地の前で待っていた。