キスミー、キミー
□追跡者
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出撃直前のヘリポートに、恋人のノリーが現れた。ピートは感激した。
北アフリカ勤務になってから、ヴィラのかわいいスタッフたちと何人もつきあったが、ノリーが一番ハンサムだった。
むかし騎手になりたかったほどの馬好きで、彼のからだつきも悍馬に似ていた。エネルギーがつまり、大地を蹴り上げるような素晴らしいバネがある。
――見送りにくるなんて、かわいいことを。
が、抱きしめようとすると、ノリーはすげなくピートの胸を押し返した。
「フィルモアはどこ?」
と、聞いた。フィルモアとは、任務を奪った第一のでしゃばりSASである。
隣だ、とこたえると、恋人はかろやかに離れ、第一デクリアのヘリの傾斜板をあがっていった。
(あいつら、いつのまに)
鶴のように首をのばし、傾斜板の奥をのぞいた時、ピートはフィルモアがごく自然にノリーの腰を抱いたのを見た。
ピートはすっかり出撃するがイヤになってしまった。
(やつらを撃ち殺すか、帰って、毛布かぶって寝ていたい)
砂漠の上を移動しつつ、彼は憮然と膝をかかえた。
その顔の前に小型の白板が突き出された。ヘリ内では、騒音で音が聞き取りずらいために、筆談用の白板をつかう。
――フリーフォール(パラシュート降下)でもしてあそばねえか。
金髪の大男レニーが鼻でもほじるように見ていた。ピートはそれに返事を書いた。
――くそったれ。寝てろ。
――みんなで飛びながらマスをかくとか。
――そこから突き落とすぞ。寝てろ。
――失恋はみじめだな。
馬鹿な友人を白板で殴りつけようとすると、操縦士がなにごとか言い、片手をあげた。
「コンタクト(接触)」
と告げていた。