セクシー山賊と犬の王
□調教編
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とたん、ロレンツォは首の鎖をつかみ、ぐいと引いた。
鎖を掴んでいた山賊がつんのめる。ロレンツォは獅子のごとく山賊に飛びかかった。その腰から剣を奪う。
「ヒえッ」
小男は転がるように跳び逃げた。
町の男たちもあわて騒ぐ。最前にいた者たちは悲鳴をあげ、逃げ道をもとめて群れをかきわけた。
しかし、ロレンツォはすぐにからりと剣を取り落とした。
「ぐ、ぬ」
腕が石となって動かない。足も地に貼りついて動かなかった。
「落ち着かれい。町の衆」
ハルキはロレンツォの動きを封じてから人々に呼びかけたが、恐慌を起こした男たちは聞かなかった。鼠の子のようにあわたしく散った。
ハルキはふりかえり、憮然とロレンツォを見た。
「旦那衆に仕える前に、おぬしには分をわからせねばならぬようじゃな」
「犬畜生めが!」
ロレンツォは唾をはいた。
ハルキはそれを冷かに見て、
「犬畜生はおのれじゃ」
口のなかで呪文をつぶやく。
すると凍りついた手足に血がもどり、ロレンツォはよろけた。足を踏ん張るが、立っていられない。ひざが伸びなかった。
「うお」
ロレンツォは足を見て、跳ね飛びそうになった。
脛が薄茶色の毛皮で覆われている。ひざも太ももも、獣のそれに変わっていた。
「クッ」
腕も同じく細い獣の前足となっている。
ロレンツォは直立に耐えず、敷石に四肢をついた。すぐに立とうとしたが、ひっくり返りかけ、ばらばらと手足をつく。爪が石にあたって固い音をたてた。
――犬に!
ロレンツォはおののいた。ミハイルにしたように獣に変えられたか。
しかし、腹には毛がない。股の間にはなじみの一物が下がっている。
人間の胴に、手足だけが獣に変えられたようであった。
ハルキが不快げに言った。
「驕慢なおぬしに、人なみの扱いは無用じゃったわ。 獣としておれ! 旦那衆への口の利き方をおぼえるまで、這って歩き、落ちたものを喰らうがよい!」
「おのれ」
ロレンツォは吼えた。
「どうせなら、完全な犬とせよ。牙でその咽喉笛噛み裂いてくれよう!」
途端、ロレンツォは胸から地面に張りついた。腕に力が入らない。
とんでもないじゃじゃ馬じゃ、とハルキはにがい顔をした。