キスミー、キミー
□追跡者
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第11話
砂漠のベージュの肌の上を、二機のヘリが影を落として移動していく。
回転翼の騒音が轟く機内で、ピートはむっつりと膝を抱えていた。
彼の部下もいじけていた。みな、ヘリの冷たい床の上で、退屈そうにごろ寝している。
抗弾パネルのかわりに、ベストにニンテンドーを挿している者もいた。
イヤミであった。
ほんの三時間前、彼らは意気揚々とヘリに装備を運び込んでいた。
『アクトーレスと犬が、ロミオとジュリエットみたいに手に手をとって逃げた』
この事件を聞き、ミッレペダ北アフリカの第二デクリアは、足踏みしながら出撃の指令を待った。
ハスターティ兵が捕まえてしまうやもしれぬ。また、逃亡犬たちがアフリカを出て行ってしまえば、彼らの用はない。
が、逃亡先はチュニジア南部、と聞いて、飛び上がってよろこんだ。
出番が来た、と思ったのである。
しかし、出撃直前のブリーフィングの場で、第一デクリアの隊長が、
「この件はうちがもらおう」
と言い出した。
逃げたアクトーレスはアメリカの特殊部隊デルタの出身であり、第二デクリアには荷が重かろう、という。
この隊長はイギリスの元SASの戦闘員だった。特殊部隊のライオンを狩るのは同じライオンたる自分であろう、という顔をしていた。
対する第二デクリアの隊長は、これを面倒くさく思った。
いいですよ、とゆるしてしまい、第二デクリアは護送という地味な役割に甘んじることになった。隊はオプティオのピートにまかせて、自分は出動さえしない。
(任務のことはともかく、だ)
ピートの無念はもうひとつあった。むしろこちらの打撃のほうが大きい。