キスミー、キミー

□追跡者
1ページ/64ページ

 第11話



 砂漠のベージュの肌の上を、二機のヘリが影を落として移動していく。
 
 回転翼の騒音が轟く機内で、ピートはむっつりと膝を抱えていた。

 彼の部下もいじけていた。みな、ヘリの冷たい床の上で、退屈そうにごろ寝している。

 抗弾パネルのかわりに、ベストにニンテンドーを挿している者もいた。

 イヤミであった。

 ほんの三時間前、彼らは意気揚々とヘリに装備を運び込んでいた。

『アクトーレスと犬が、ロミオとジュリエットみたいに手に手をとって逃げた』

 この事件を聞き、ミッレペダ北アフリカの第二デクリアは、足踏みしながら出撃の指令を待った。

 ハスターティ兵が捕まえてしまうやもしれぬ。また、逃亡犬たちがアフリカを出て行ってしまえば、彼らの用はない。

 が、逃亡先はチュニジア南部、と聞いて、飛び上がってよろこんだ。
 出番が来た、と思ったのである。

 しかし、出撃直前のブリーフィングの場で、第一デクリアの隊長が、

「この件はうちがもらおう」

 と言い出した。

 逃げたアクトーレスはアメリカの特殊部隊デルタの出身であり、第二デクリアには荷が重かろう、という。

 この隊長はイギリスの元SASの戦闘員だった。特殊部隊のライオンを狩るのは同じライオンたる自分であろう、という顔をしていた。

 対する第二デクリアの隊長は、これを面倒くさく思った。

 いいですよ、とゆるしてしまい、第二デクリアは護送という地味な役割に甘んじることになった。隊はオプティオのピートにまかせて、自分は出動さえしない。

(任務のことはともかく、だ)

 ピートの無念はもうひとつあった。むしろこちらの打撃のほうが大きい。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ