キスミー、キミー
□禁忌
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第1話
(上玉じゃないか)
のぞき穴を見つめ、客は自分の瞳孔がひらくのを感じた。
ステージの犬は、美しかった。
海兵の白い制服を着ている。シャンパンブロンドのゆるい巻き毛がセーラーカラーによく似合った。
同じく海兵の制服を着た大男のひざにのせられ、ズボンに手を入れられている。その手が股間で大ぶりに蠢くたびに、きれいな眉をしかめ、うすく開いた唇から甘いためいきをついた。時々、楽しそうにキスを返す。
(これは格がちがうぞ)
客は唾を飲んだ。
犬は地下の犬にありがちな、荒んだにおいがない。
澄み切った若者らしい面差しに、夢見るような甘いグリーンの目をしている。細身のからだには、健康な透明感があった。
(二十歳か。これは掘り出し物だ)
おそらく、地下に来てまだ日が浅い新品だと思った。少し値が安いのが気になったが、客はオーダーボタンを押した。
落札のランプが点灯する。
客はいそいそとフロアに出て、偶然、顔見知りと会った。
「やあ、いい犬はいたかい?」
「ああ、掘り出し物をみつけたよ」
客がパンフレットを見せると、知り合いは複雑な顔をした。
「こいつはやめたほうがいいな」
「なぜだね」
「邪視だって噂だ。主人を三人死なせてる」