2月映画
□鬼が島
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彼らはいずれも巨大だ。
おとなは男も女も大木のように大きく、醜い。
いずれも巨眼で、牙が唇から飛び出し、頭に二本の角もある。
昔話にある鬼とは彼らのことをさしていたらしい。
ただ、彼らの文明は金棒とトラのパンツのレベルではなく、高度に発達した科学技術を持っていた。
音や振動を使って、おれの頭に耐えがたい頭痛を引き起こすこともできたし、勝手に食欲を高めたり、排泄させることもできた。
ただ、どういうわけか翻訳こんにゃくだけは発明できなかったらしい。犬猫の言葉と同じぐらい、彼らの言葉は難解だった。
おれは子ども鬼のペットになっていた。
ビッグエッグほどのドーム状の住居のなかに、おれのためのハウスが置かれた。遺憾ながら、おれのアパートより広く、清潔だ。果物のような食事もうまい。
時々、マダム鬼がおれを『トイレ』に貼り付けて、中身を搾り出したが、ドーム内にいるかぎり虐待されることはなかった。
彼らはおれに排泄物に用があるらしい。地球と同じく、植物の肥料にしているようだ。
排泄以外の仕事は、子ども鬼の遊び相手だ。
子ども鬼は忘れっぽい。彼はすぐ首輪を忘れて、おれを散歩に連れ出そうとする。
そのたびに、おれの頭は破裂しそうに痛み、吐き気とめまいで立てなくなる。
これは逃亡防止のテクノロジーらしく、勝手に家から出ると作動するのだ。首輪をつければ、けろりとおさまる。
首輪をつけ、散歩に出される。全裸なので非常に気後れするのだが、子ども鬼はおれを見せびらかしたいらしい。
彼の友人たちが集まると、彼はたいがいおれを抱えあげて、尻の穴を見せる。そして、あの音をさせて、糞をひらせようとするのだ。
まったくやりきれない。
おれは一度、彼の腕から飛び出した。相当な高さがあったが、この星は重力が軽い。
意外と逃げられるものだ。おれは忍者のように飛んだ。
当然、子どもたちが恐ろしいわめき声をたてながら追ってくる。
ドームのひとつに逃げ込もうとした時、子ども鬼の山のような巨体が飛んできた。
土砂崩れにのまれるようだ。一瞬、おれは意識をうしなった。
気づくと、子ども鬼はおれを地べたに押し潰しながら、誰かと話している。彼の顎の下から、青い巨大な人影が見える。
――青鬼?
青い鬼は、まさに青筋をたて、鋭い牙を剥き、子どもたちにけわしく何か言っていた。子どもたちはいいわけするようにしゃべりながら、おれを抱えてあとじさった。
子ども鬼は、意外にもおれに腹をたてなかった。
だが、あとで何ごとか、くどくど言い、もう一度、おれをあの青鬼のドームへつれてきた。
おれはドームのそばに落ちているものを見て、ぞっとした。
ちぎれた地球人の足が青い砂にいくつもささっていたのである。
この星には、地球人を好ましく思わない人種もいるらしい。