キスミー、キミー

□追跡者
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 全員が起き上がる。

 開け放したドアの下に、砂をけたてて疾走する白いランドローバーが見えた。
 全速力である。犬たちも敵に気づいている。

 ピートのヘッドセットにすぐ無線が入った。第一の隊長フィルモアからだった。

『作戦を開始する。第二機は高度1500フィートを保て』

 そこらにいて邪魔をするな、という。
 操縦士のタローは毒づきながら、ヘリを地上から離した。

 ピートと隊員たちは小学生のようにドアに張りつき、砂漠の逃走劇を見下ろした。
 白いランドローバーがネズミのように逃げまわっている。ヘリはかなり低空を這い、その尻を追った。

 ヘリの振動音にまぎれて、時々、第一デクリアの銃手たちが撃つ銃声が聞こえた。
 遊んでいる。タイヤを狙っているが、なかなかうまくいかないようだった。

「ケッ、第一のやつら大はしゃぎだぜ」

 隊員たちはうらやましそうに見下ろしている。

「上からクソでも落としてやりてえ」

「逃げろ逃げろ」

 ヘリが地上に下りようとしている。機動性の悪いヘリ攻撃はやめ、地上から強襲することにしたようだ。

 するとランドローバーが不意にするどくターンした。ヘリに向かって停まる。

(?)

 ピートは目をほそめた。
 車の窓から肘が出ていた。なにか長槍のようなものを抱えていると思った時だった。

 長槍の尻から、小さく火の玉がはじけた。その瞬間、槍先から弾頭が彗星のように長く煙を引いて、ヘリに向かっていった。

「ア――」

 みな、ア、としか言えなかった。

 ヘリのコクピットに大きな爆発が起こった。
 機体が地面にへたりこみ、半回転して猛烈な砂埃を巻き上げた。その中から隊員たちがあわてた虫のようにこぼれ出ていく。
 
 ピートは部下と顔を見合わせた。
 みな、阿呆のように口をあけていた。

 ――RPG(ロケット推進擲弾)?

 ランドローバーがゆるゆると方向転換している。あばよ、とばかりに南へ走り去っていった。





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