2月映画
□鬼が島
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おれは裸で透明なベッドにあおむいていた。
腹がくるしい。さっき食べさせられたエサのせいで、妊婦のボテ腹のようにふくれあがっている。動くこともままならない。
(ああ、まだか……)
腸を突く痛みにふるえが走り、生唾がわく。おれはふくれた腹を抱え、苦悶に顔をしかめた。
排泄はゆるされていない。
鬼たちの、不思議な音波がおれの肛門を縛り上げている。
はじまりは一本の動画だった。
雑誌のイロモノ企画で動画サイトを繰っていた時、
――空中レイプ。
という妙なタイトルを見た。
サムネイルには、裸で宙に浮いている男の写真がある。
ついクリックしてみて、おれは目をしばたいた。
若いサラリーマンが宙に浮き上がっている。空中でもがきながら、パニックを起こしてぎゃあぎゃあわめいている。
場所は新宿の東口だ。大勢の人間がこの奇怪な現象に気づき、あっけにとられていた。
浮いたサラリーマンの体から、なぜか衣服が脱げていく。背広が引きちぎられるように飛び、ズボンもパンツも足から抜けてしまった。
――やめろ。やめてくれ!
サラリーマンはハンモックのように宙につりさがり、裸の尻を見せている。なぜか足を大きくひらき、ヒイヒイもがいていた。
――おい。あいつ、クソもらしてねえか。
――うそ。あ、マジ出てる出てる。
カメラがズームし、大股開きになった股間を映す。尻から黒い影がぶらさがっていた。
サラリーマンは泣き叫んでいる。見るな、とわめきながら、空中で股を開き、大便をひり出していた。
携帯の動画だったらしく、映像はそこで切れていた。
ぶっとんだ内容だ。UFO画像ではないが、おれはネタになるのではないかと思い、新宿の事件、を検索した。
すると、あと数本同じ事件の動画が出てきた。いずれも違う角度から撮っている。さらに、事件の内容を記した記事もあった。
記事によると、射精後、朦朧とした様子で十分ほど宙に浮いていたらしい。
そして、忽然と消えた。
誰かの大掛かりなイタズラだろうか。合成か? しかし、それにしては目撃数が多い。
おれは興味を持った。編集部には言わず、ひそかにこの事件を追っていた。
あの若いサラリーマンは桜井隆弘という銀行員だ。
まだ二十五歳。写真ではおとなしい、きれいな顔をしていた。あれきり失踪してしまっている。
おれは彼を探した。そして、おれも消えた。