小説

□それも案外面白いだろう
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※トリップしてきてから最初に出くわしたアーダルベルトと一緒にいることを決めた少年の話。
※因みに夢主はユーリの従兄弟。


会って間もない男に、俺は物好きなやつだと評価された。

「物好き?」
「そうだよ。お前はほんと馬鹿だ」

そう言って、前を歩いていた男は俺を笑う。いくら寛大な俺でも、会ってまだ数時間も経っていないの奴に馬鹿だなんて言われたのが流石にムカついて、馬鹿じゃないと強く言い返す。すると男は歩くのを止めてこちらを振り返った。そこでようやくターコイズの瞳と視線が交わる。睨み付けてやると、男は顔を背けて、それから脱力したような息を吐いた。それからまた歩き出したので慌てて隣まで追いかける。

「何だよ。なんか間違ってたのか?」
「間違ってるっつーか……まさか敵にくっついてくるとは思わなかったんだよ。お迎え組の呆け面は見物だったがな。俺も百年以上生きて来たが、此処までの馬鹿とは会ったことがねえ。あのユーリ陛下以上だ。多分お前が、この世界で一番の馬鹿だろうよ」
「……あっそ。もう馬鹿で良いし」

でも簡単に俺が馬鹿と認めるのはこの人には面白くないようで、男は顔を顰めた。辿り着いた古びた家の扉をノックもせずに開けて、彼は中に入った。どうやら空き家だったらしい。入れと言われたので言われたままに従うと、呆れたようにまたため息を吐かれた。まだ言いたいことがあるんかよ。

「……もう一度言うが、お前は魔族なんだ。さっきお仲間が迎えに来ただろ?あいつらのとこに行くべきなんだよ、手前は」
「へえ、そうなんだ。でももう逃げちゃったし」
「安心しろ、また迎えが来るだろう」
「あーのーさぁー、アーダルベルトは魔族じゃないのか?」
「……違う」
「何だよ?その間」
「俺は魔族だったが、あいつらに嫌気がさして裏切ったんだ」
「ああー。だからあの柑橘頭の人が、お前は俺にとって敵だとか、何とか……」

この男と話していた時、乱入して来たオレンジ頭の男は、必死な顔をしてこの男から離れてくださいと言った。これは魔王陛下であるユーリ陛下のなんとかなんちゃら。

「魔王陛下の親族である手前を俺が殺す可能性があるからな」

てかユーリ陛下って、俺の従兄弟の渋谷有利原宿不利の有利で有ってるのか?有利兄、いつの間にそんな大出世を。

「でもさ。アンタ、俺を殺さないじゃん」

ニヤリと笑う男の瞳は、そんなことを愉しむような色をしていない。だからそう突っ込むと、男は不愉快そうな顔をして此方を睨んできた。床に胡座をかいて座り込んだので、俺も彼の隣に座って壁にもたれる。無防備な奴だなとまた笑って呆れられた。

「興ざめしたんだよ。お前が俺に『連れてけ』なんか言うから」

流されていた犬を助けようとして川で溺れ、気が付いたら草木が広がるファンタジーランドに俺はいた。そこで最初に出会ったのは、この男。フォングランツ・アーダルベルト。俺を馬鹿だなんて言う失礼な奴。それでも



「良いんだよ、アーダルベルト。俺はアンタと行きたいんだ」

行かせてくれ、なんて。そう言うと、アーダルベルトは困ったような表情をする。

「それに一人旅は寂しいだろ」
「寂しいだぁ?俺が?……ありえねえ!あのな。眞魔国に行きゃ、お前は良い待遇させて貰えるんだぞ」
「そんなん要らないし、別に頼んでない」
「頼んでない……まあ、確かにそうだな。なら、また国の迎えが来たらどうする?魔王陛下が直々に捜しに来たら?」
「確かに有利兄ならやりそうだな……でも悪いけど」

逃げる。あんたに着いて行くよ。きっぱりそう言うと、男は堪忍したように苦笑した。俺もニヤリと笑って見せる。





「それも案外面白いだろう?」

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