小説

□猫耳と尻尾はお嫌いですか?
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いつもお堅い表情な彼も、こればっかりは呆け面だった。ぽかんと口を開けて、黙ってしまっている。そう、私はこの表情が見たかったのだ。にんまりと口角が上がるのと同時に、背後でゆらりと何かが揺れた。数拍後、はっと我に帰った彼は、少々慌てた声だけども態度だけ冷静に、こう聞いてきた。

「……何だ、それは」
「尻尾ー」

ひょいと自分の一部になっているものを揺らしながら、軽い調子で答えを返す。頭に猫耳、尻に尾っぽという異常事態だというのに、我ながら呑気なものだ。アニシナさんの実験に付き合っていたら、獣耳と尻尾が生えちゃった。あっけらかんと机の上に腕を乗せて尻尾を左右に揺らしながらそう言うと、グウェンダルは額を押さえてあいつかと呻いた。暫くしてから、指をゆっくり顔から外して、こちらを窺う彼の、困惑気味の青い瞳と目が合う。笑って出方を待っていると、そーっと腕が伸ばされて、彼の掌が私の頭に乗せられた。耳が反応してピクンと動くと、もう止められないらしく、撫でる手に遠慮は無くなった。優しい手つきに、幸福度上昇。

「……私ね、グウェンにずっとこうされかったんだ」

いつも猫とか子犬、または例外でグレタぐらいしか、この優しい手の平を感じることが出来なかったから。とても羨ましかった。ずっと、この手が欲しかった。そう言えば困った顔をする。執務机に乗って、椅子に座っている彼の制止も聞かずに首に腕を回して、抱き着いた。するといきなり尻尾を掴まれてみゃっ!と変な鳴き声が出る。思わず涙目でグウェンダルを睨むと、少しだけ愉しそうな、今まで見たことない顔をしている。眉間の皺がいくつ減ったんだろうと数えながら、その表情をぼけっと見ていると、背中に彼の腕が回されて、ギュッと抱き寄せられる。いきなり縮まった距離に、びくりと身体が奮えた。





……ああ、これは予想外。思った以上に気に入られてしまっているのでは。

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