小説

□読めない微笑み
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※有利姉夢主


「まあ、ここには黒髪黒目の人がいないから、双黒を希少価値があるものと見ているのは分からなくないけど」

そう言って、渋谷有利の姉はため息を吐く。僕は、彼女と血盟城の広いバルコニーでお茶をしていた。つまらなさそうな顔をしている彼女の後ろには、様々な色の、綺麗な花が咲いている。まるで彼女を飾るように。だから詰まらなくないとそう思っていた時、自分の髪を弄りながら彼女は言った。

「私はこの色に飽き飽きしてるの。髪染めたい」

でも勝利兄が黒髪萌えだからそのままにしてるのよ──なんて笑う彼女の考えが、僕には掴めなかった。兄が好きなわけでもないだろうに。彼女の白い左手の人差し指が、左頬に当てられた。

「まあ、勝利兄は黒髪ロングの巫女さんか。金髪ツインテのツンデレメイドかと選択に迫られたら、金髪を取ると思うけどね」
「じゃあ金髪したいんですか?」
「いや、ブラウン系統かな」

やっぱりそう来たか。この話をお兄さんが聞いたらどう思うだろう……あれ、そういえば二人って仲悪いんだっけ?今までに彼女とお兄さんが絡む現場を見たことがないから、想像することしか出来ない。嘸かし面白いことだろう。でもこんな美人が妹なんだから、可愛がっていると思うんだけどな。

「僕はお姉さんのそのままが素敵だと思いますよ」
「あら、上手いこと言うのね村田君。その口でお母さんを口説いたりしないでね」

くすりと笑って彼女は目を細める。それから白い腕を机について、頬杖をしながら中庭のほうを見遣った。視線の先には彼女の弟とその護衛係がキャッチボールをしている様子。不機嫌そうに彼女の眉間に皺が寄る。しかしそれは摂政のフォンヴォルテール卿とは違う印象を僕に与えた。そんな表情さえ、美しいのだ。

「ウェラー卿ったらあんな爽やかな顔しちゃって。また性懲りもなくうちのゆーちゃんを口説いてるのかしら?いい加減に朽ちてくれると有り難いんだけど」
「思ったことが口に全部出ちゃってますよ、お姉さん」
「あら、失礼」

こちらに向く黒い瞳。女豹のようなそれは、多分書かれたアイラインのせいだろう。メイクの力は偉大だ。

「あの邪魔くさいウェラー卿なんとか出来ないかな?村田君」
「……方法は無いことはないですよ」

白磁のティーカップを持ちながら、僕は彼女に微笑む。

「だから、もう少し僕とお茶しませんか?」

お口が上手いこと、と彼女は声を出さずに口を動かして微笑み返した。

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