小説3

□ラメントが聴こゆ
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※暗い


どうしてこんなことになってしまったのか、理解出来ない。

厨房係から、栄養の釣り合いがきちんと摂れている献立の料理が乗った盆を受け取り、廊下を暫く歩いてから見張りの兵がいる扉の前でヨザックは立ち止まった。ため息を吐きたくなる気持ちを堪えて、見張りに鍵を開けさせて部屋の中に入る。質素な部屋の中で唯一編みぐるみで溢れた寝台に座っている少女を見て、足を止めた。開けることの出来ない窓を見ている黒い瞳は虚ろで、触れてたらすり抜けてしまいそうだ。息を整えて、彼女を呼ぶ。

「姫さん」
「……あ、えっと…」
「グリエよ、グリエ・ヨザック」
「ああ、グリ江ちゃん」

振り返った彼女が警戒心を解いて安心したように笑うので、自分も安堵して寝台に足を進める。お盆を何も置かれていない机に置いてから、いつものグリ江で応対を続けた。

「そーよ、姫」
「姫って、私?逃げないように鍵をかけて、外に出れない不自由な私は姫なの?笑っちゃう」
「……それはアンタが大事だから」
「眞王陛下さんとやらがもとの世界に返してくれたら良いだけの話じゃない」

閉じ込められている少女が、知らないはずの知識を話すので、一瞬思考が止まるが、すぐに気を取り直して訊ねる。

「どこからそんな話聞いたんですか」
「この編みぐるみを届けにきた貴方の上司さんよ」
「グウェンダル閣下が?そりゃあ珍しい」
「そうなの?三日に一回は来るけど。よく頭撫でてくれる」
「ほら、アンタが大事なんですよ」
「……でも私、こんな場所に閉じ込められるのは嫌」

編みぐるみを幾つも掻き集めて、自分の腕で抱き締める少女に苦笑する。ちょっとした事故で、此方の世界に来てしまった哀れな彼女。アニシナ女史の魔動装置のお陰で言葉が通じたのが救いだっただろう。しかし、此の世に二人といない双黒の人物の存在が知られてしまえば、彼女は狙われてしまうだろう。

双黒の若い魔王陛下の少年がいない今となっては、国内でもだ。

安全の確保のための、監禁。聞こえが良すぎてその残酷さを薄めさせる。

「なんか、欲しいのあります?オレが調達出来る範囲なら頑張りますけど」
「ケーキ。ケーキが食べたい」
「けーきって……前ヴォルフラム閣下が差し入れてくれたやつですかね?うわあ、贅沢者ー」
「二人分ね。貴方も一緒に食べるのよ」
「……いや、多分買う金は閣下の自腹になるんで」
「だったらあの人の分も買えばいい。ここで三人で食べる」
「わがまま」
「私は姫なんでしょ?」
「そーでした。んじゃあ買ってきますよ、大人しくご飯食べててください」
「いってらっしゃーい」
「笑顔全開ですね」
「グリエさんとケーキ食べれるからね」

ケーキ、ケーキと浮かれた声で寝台に寝転がり無邪気に笑う少女が、扉を閉めた途端に笑みを消すのを見てしまい、喉の奥で何かがつっかえたような、そんな不快感を持て余しながら上司の部屋に向かう。彼なら所望のものより素晴らしいお菓子の家くらい作ってくれるに違いない。















ラメントが聴こゆ





有利が亡くなっていまして、そんな時にトリップしてしまった夢主。暗い…暗すぎる。

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