銀桂

□たなばたさま
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塾に来て数ヶ月がたった。少しずつ雰囲気にも慣れてきた、そんなころ。
「さぁ、皆さんで短冊を飾りましょうか。」
急に先生がそんな事を言い出した。
「たんざく?なんだそれ?」
「笹に願い事を書いた紙を飾るのだ。そうすると願いが叶うらしい。」
横にいたヅラが答える。
「ふーん…」
ずっと独りで生きてきた。
そんな行事があることさえ知らなかった。
「では短冊を配るので皆さん願い事を書いて下さい。」
先生が細長い紙を配り、塾生たちはキャッキャと嬉しそうに願い事を書いていく。
「願い事…か…」
“独り”だったころにはたくさんあった。
『ごはんをおなかいっぱいたべたい』とか『あったかいふろにはいりたい』とか…『ひとりはもういやだ』…とか。
でも今は、飯はそれなりに食べられるし、風呂にも入れる。それに…“みんな”がいる。
「うーん…」
俺が迷っているとヅラが話しかけてきた。
「なんだ、まだ迷ってるのか。」
「なんだよ、お前はもうできたのかよ。」
「あぁ。」
「…見せろよ。」
「……それは出来ない。」
「んだよ、どうせ『もっと頭良くなりますように』とかだろ、いいじゃねーかっ!!」
「うわっ!!離せ!!やめろー!!」
俺がヅラの短冊に手をかけた時だった。
「銀時…人の願い事を見るのは野暮ってものですよ。」
優しげな声音だったがその奥には諭すような強さがあった。
「先生…わかったよ。」
ヅラの短冊を離した。
その時、俺の中に一つの願い事が浮かんだ。

「よし!!俺もできた!!ヅラ、飾りに行こうぜ!!」
「ヅラじゃない桂だ。よし、行くか。」
笹にはすでに沢山の短冊が飾ってあった。
「俺はここに…」
「じゃあ俺ヅラより上〜♪」
「あのな…人より高いところに飾るからって願い事が叶いやすくなるわけでもないんだぞ。」
「いいんだよ、俺なりの作戦なんだから。」
「どんな作戦だ…」
鮮やかな短冊たちは爽やかな風に吹かれて、まるで踊っているかのようだった。
「綺麗だな…」
「あぁ…」
「ところで銀時はなんとお願いしたんだ?」
「人の願い事を聞くなんて野暮だぜ?」
「フッ…そうだったな。」
俺の願い事は…
『銀時と』『小太郎と』
『『ずっと一緒にいられますように…』』
 

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